「秋月祐一とけんごの短歌ワークショップ 〜はじめての短歌〜 第十回」秋月祐一
けんごさん、こんにちは。秋月祐一です。
はじめての挑戦で七首のみごとな連作を作ってくださったけんごさんですが、
「連作」はとても奥が深いですよね。
歌の並び順によってもガラッと印象が変わりますし、
歌と歌の響き合いによって世界がふくらんでゆくし、
場合によってはストーリー展開も可能だし、
逆に、一首独立で、トーンによって連作を成り立たせることもできるし。
けんごさんもお気づきのように、
連作を編むときは、一首ごとの行間の距離感みたいなものを、
設定することが必要となってきます。
そこに連作を作ることのむつかしさと醍醐味の両方がかかっている。
そんな気さえします。
けんごさんがお読みくださった、ぼくの三首の連作。
【参考例】
地底湖に落としたカメラ ぎこちないきみの笑顔を閉ぢこめたまま
泥棒市場で買つた時計のうごかない秒針のこと、結婚のこと
大輪の花火はじける五億年後にぼくたちの化石をさがせ
(ルビ 泥棒市場=バザール)
一首目、二首目で、ちょっとネガティブな要素を出して、
恋愛の紆余曲折を、読者の方に感じとっていただき、
三首目でハッピーエンドに持っていく、という意図でつくったものでした。
一首目の「ぎこちないきみの笑顔を」は、付き合いはじめの頃の、
ぎこちないふたりを想像していただければ、という思いで書きました。
二首目の「うごかない秒針」「結婚のこと」は、
ふたりのあいだで結婚話も出ているけれども、
それが何かしらの事情でうまく進んでいないことを暗示させ、
三首目で、一気に五億年後に飛び、
ふたり仲よくならんで化石になっている、
という落ちをつけたつもりです。
要するに、一首ごとの行間がとても広い連作で、
読み返すと、この連作を書いた頃のぼくは若かったんだなあ、
と思ったりもしました。
地底湖、泥棒市場(バザール)、五億年後などの非日常語を用い、
この連作独特のトーンを作りだそうとしています。
細かいテクニックでいうと、短歌には切れというものがあります。
初句切れ
たとへば君/ガサッと落葉すくふやうに私をさらって行ってはくれぬか 河野裕子
二句切れ
白鳥は哀しからずや/空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水
三句切れ
この森で軍手を売って暮らしたい/まちがえて図書館を建てたい 笹井宏之
四句切れ
金色のちひさき鳥のかたちして銀杏散るなり/夕日の岡に 与謝野晶子
句切れなし
砂浜にふたりで埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね 俵万智
拙歌を切れの位置でいうと、一首目は二句切れ。
地底湖に落としたカメラ ぎこちないきみの笑顔を閉ぢこめたまま
地底湖に落としたカメラの取り戻せなさを、
二句切れ+一字空けで表現しています。
二首目は四句切れ。
泥棒市場で買つた時計のうごかない秒針のこと、結婚のこと
読点によって、結句の「結婚のこと」が強調されているのが
お分かりいただけますでしょうか。
三首目は五句切れ(切れなし)
大輪の花火はじける五億年後にぼくたちの化石をさがせ
途中に切れがなく、歌の終わりまで、ひとつながりになっています。
といった感じで、単調にならないように工夫しております。
*
さて、今回のけんごさんの英単語まじりの作品を見てゆきましょう。
>間抜けって英語でなんていうんだろ stupid それは愚かだ
Google翻訳だと、stupidにも間抜けの意味があるようなのですが、
けんごさんの心づもりとしては、dumbを引き出したいのかな、と思いました。
間抜けって英語でなんていうんだろ "dumb" とGoogleが教えてくれた
すみません。これはあまりよい推敲例ではありませんね。
>咲く花かヒッピーの様な Flowers 愛と死、色の種が撒かれた
これはこのままで、いい歌だと思います。
>free sad heal dead遠まわりした道に咲く、たんぽぽの色
短歌定型の句切れでいうと、
free sad heal dead/遠まわりした道に咲く、たんぽぽの色
という感じでしょうか。
「遠まわりした道に咲く、たんぽぽの色」に、
free, sad, heal, dead の四つ感情をいだいた、と取りました。
これもカンマをたせば、そのままでいいように思います。
free, sad, heal, dead 遠まわりした道に咲く、たんぽぽの色
この三首を核として、さらなる連作ができそうですね。
英単語まじりの歌で、おそらく最も有名なのは、
生理中のFUCKは熱し
血の海をふたりつくづく眺めてしまう
/林あまり
だと思います。
ぼくは英単語を使った作品を作ったことがなかったので、
この機会に、おそるおそる作ってみました。
August 青田かすめる夏つばめついてゆきたい Catch Me Up
/秋月祐一
けんごさん、いかがでしょうか?