「終わりいく道」春野たんぽぽ

2021年11月09日

「終わりいく道」

ニッポンなんてどうでもいいのです
そう綴られた手紙は
色褪せて、
変色して、
所々滲みが見えた

高速バスに揺られていると
一点を見つめているはずなのに
その一点は移り変わって行く
そりゃ移動しているからね
そう私に声を綴るあなたが
私には、まだ、いる

祖母が綴った手紙は
死んだ祖父に宛てられたものだ
特攻に行った彼は
祖母と幼い子どもたちを残して
死んだ

今度あれを観に行こうよ
私のそれが私に言う
家族のために戦争に行った人の話
映画?
そうそう
あははと私が笑うと
それは不思議な顔をして
きょとんとした

一体たったひとりで何ができましょう
ひとりが鬼畜の軍艦に突っ込んだところで
一体何になりましょう
ますます、戦争が、ひどくなるばかり
そのことはあなただってご存知でしょう
私を置いて行くのですか
ニッポンなんてどうでもいいのです
子どもだって私には関係ない
あなた、
あなただけが、
あなたの生が、
私のかけがえなのです

読み終わったその手紙を私は
破った
高速バスの窓は開かないから
コンビニでもらった袋に捨てて
きつく持ち手を縛った
もうすぐ
足利サービスエリアに着く







春野たんぽぽ