「脚売りのタコ」大島健夫
2021年12月21日
ここにいたのは、脚売りのタコでした
チャルメラのかわりにタコメラを吹き
タコ壺の家賃を払うため、毎日一本ずつ脚を売っていました
生活が苦しくなった時、家賃の減免を申請しても
ただ却下されるだけでした
売れるものがあるならお売りなさいと言われて
最初は墨を売ったそうです
チャルメラのかわりにタコメラを吹いて
けれど、誰も買ってくれなかったそうです
イカ墨なら買うとも言われたそうです
けれどタコにはタコ墨しかありません
そんな時、誰かが言ったそうです
その脚なら欲しい、その脚なら買ってもいいと
七日間、脚を売り続けたそうです
チャルメラのかわりにタコメラを吹いて
脚が一本だけになった時、気付いたそうです
この脚を切り落としたら、もうどこにも行けないことに
もうタコ壺には帰れないのだから
家賃を払うこともないことに
タコは私にタコメラをくれました
そして、海の底に沈んでいきました
暗い深い海の底に
吹いて聴かせてあげましょう
これが私がもらったタコメラです
とてもいい音が鳴るんです
それは信じられないほどですよ。