「花咲フリーター」牧野晋三

2022年10月02日

「疑え。
もっと、ちゃんと。
ちゃんと考えろ。
ちゃんと考えずに
ぼんやり生きた結果が、
現代人という名の
ものを言う家畜だ。」

メキシコの思想家 トルティーア・タコス

思想書 もの言う家畜



「おいっ、おいっ、分かっとるんか。

マッチングアプリに月3000円払うだろ。
モテなくて彼女欲しい奴が寂しくて女とセックスしたい奴が一万人3000円払って登録してみろよ。
それだけでもう、3千万儲かるんだぞ。
しかも、毎月。
完全にそれって騙されてるから。
これは俺たち男の勃起という生理現象を利用した新たなる詐欺だと思うぞ。
ポストオレオレ詐欺だろ。
ダーウィンもマジでビックリの進化論だよ。」

時間は17時34分。
アルバイト先のホームセンターの店内は昼から降り続いた雨の影響で買い物客がほとんどいない。
活気とは程遠くずっと建物にぶつかる規則的な雨の音と有線の店内放送が延々と無機質に流れている。

「どうしたんすか。
蒔田さん。めちゃくちゃ荒れてるじゃないすか。
マッチングアプリに両親でも殺されたんですか。」

アルバイトの大学生の志戸くんが呆れ気味にやる気なく切り返した。
レジから10メートルくらい離れたトイレットペーパー売り場。
雨の影響で全然売れない陳列されたトイレットペーパーをきれいに並べて整えているふりをしながら、俺はいつもの日課を始めた。
いつもの日課とは大学生アルバイト相手に蒔田さんのありがたい話という名目で説教と社会の愚痴を時間がある限り延々と相手に語り続けるという俺にとってはスッキリするが相手の大学生にとっては非常に迷惑な日課である。


俺の名前はパンク、39歳。
ただのフリーターだ。

「どうしたもこうしたもない。
社会とこの国の国民が俺をめちゃくちゃに苛立たせる。
8月、真夏だぞ。
東京、34度超えてたりすんのに。
今日は雨で割と涼しいけどさ。
こんな真夏に外でマスクをして歩いてたりする我が国民はもう変態だろ。
コロナが始まってもう2年くらいたったよな。
感染者も減ってるし、外ではマスク外していいって報道もあるんでしょ。
マスク外さない奴が多すぎるだろ。
我が国民だけ口が性器にでもなったんですか。
それとも、乳首の扱いになったんですか。
くちびるちくび。

うちの店も店内に入る時はマスク着用とアルコールによる手指の消毒を訴えてるけどさ。
もう、いいんじゃないの。
お客さんでいるじゃん、子供にマスクをさせてる親。
俺、子供にマスクさせてる親殴りたくなってくるもん。
もう、ある意味幼児虐待だってこんなん。
そう思うだろ。」

「あーっ、そーすっねー。そうっすよねー。」

そう、言って後ろで手を組んだ志戸くんがカチカチと二回ボールペンをノックした。
コイツ聞く気ない。
と言うか多分聞いてない。
志戸くんはうちのホームセンターでアルバイトをしている大学3年生だ。
小学生の頃からずっとバスケをしているバスケ少年で、身長が高く、細身でスラッとしている。
流石、運動部という感じのハキハキとして受け答えと爽やかで明るい空気、仕事も覚えが早く、基本的に人には愛想良く接する。
いわゆる陽キャの見本のような男である。
大学生一年生の頃からうちで働いているから、
初めて彼と会ったのは彼が19歳くらいの時である。
もし、俺が10代でデキ婚していて子供いたらこのくらいなんだろうな。
とか変な事を考えて、なんか勝手に意識しすぎて緊張しながら接して仕事を教えていた気がする。
コイツの場合、若いのにかなり人間の出来た男で、人の話はちゃんと聞く、人を上手に褒める、ネガティブな話題をしない、というスポーツマン特有の最高にイイ奴なのだ。
最初は明るくて爽やかないかにも女にモテそうな余裕のある感じがなんか自分のコンプレックスを刺激してくるので、結構ギスギスと接していた。
しかし、
なんかの弾みでアニメの話になってお互いに進撃の巨人が好きだという事が分かって、急に距離が縮まった。
男同士というのはこういうところがイイ。

「志戸、貴様ちゃんと俺の話聞いとるんか。」

「もちろん。聞いてますよー。」

そう言いながら、またカチカチとボールペンをノックした。
コイツ多分、自分が興味ない話を聞き流している時、ボールペンをノックする癖があることに気づいていない。
あと、シャドーボクシングするみたいにスリーポイントシュートのフォーム練習する癖があることも。
今日、俺との会話の中でその癖を2、3回繰り返している。
きっと、今日は余程俺の話しというか俺の説教がつまらないんだろう。
俺も10代、20代の頃そうだったが、なんか真面目な話とか社会に対しての話を語る歳上ってのが苦手だった。
そして、その話は若い自分にはつまらなかった。
まさか、自分が10代20代を過ぎて、10代20代の子らにそんな自分がされたくない話をしているんだから、人生は分からないものである。

「あっ、そういえば蒔田さん。
先月、7月に安倍元総理殺されたじゃないですか。
それで今、国葬するとかしないとかで国民の間で意見が割れてるじゃないすか。
蒔田さんはどう思いますか。
蒔田さんは国葬した方が良いと思いますか。」

今日初の志戸くんからの俺への質問だ。
こういう時は、流石にボールペンをノックしない。

「俺はだな。

国葬はやった方が良いと思ってるよ。」

志戸くんが目を見開いた。

「えっ、蒔田さんどうしてですか。
みんな基本的には反対してますよ。」

彼の言葉の語尾が急にあがった。
食い気味に俺を見つめる瞳の奥からは好奇心が爛々と輝いているのが感じられる。
さっきの興味のない態度と打って変わってのこの態度に俺は少し気分が良くなった。
こう言った時の歳下の態度というのはとても可愛く感じる。
弟のいる兄の気持ちとか息子のいる父親というのはこう言った気持ちなんじゃないかとなんとなく思った。

「まぁ、正確には反対でもあるよ。
安倍殺されたざまぁとか殺されて当然と思ったし、次は竹中平蔵をお願いします。
とか言ってギャグにしてたんだけど。
なんか、YouTubeで安倍さんが殺された直後の岸田総理の挨拶を見てたらなんか感じるものがあった。
それはうまく言葉には出来ないんだけど。

別に岸田も支持してないよ。
選挙も自民党に入れなかったし。
でももう、殺されたんだし、もう終わったんだよね。
ってなんか思ったんだよね。
なんか、人が死んだ事を喜んでいる自分ってどうなんだろう。
って思った。
なんか、もうそれが日本の失ったもののような気がしてね。
でも、
安倍さんは俺にとって全然良くなかったよ。
なんの恩恵を受けてないし、
殺されても仕方ないんじゃないのって
今でも思ってるよ。
だけど、自分達の国の元総理大臣の国葬を反対してる国ってどうなんだろう。
まぁ、それもあるけど死んだ人の葬式をどうのこうの言ってるのってなんかもう俺の知ってる日本人じゃないような気がして。
まぁ俺自身も含めてそうなんだけど。
なんか凄い下品な気がしてさ。
本気で国葬を辞めて欲しいって感じも伝わって来ないし。
Twitterとかネットニュース見るよ嫌気さすよ。
まぁ、見てる俺も俺だけど。
あと
というかなんか騙されてないかな。
俺たちって思ってさ。」

「出た。蒔田さんのパワーワード。騙されてないかな。」

「まぁまぁ、そう茶化さずに聞いておくれよ。
オリンピック、ワクチン、そして今回の国葬。
この3つってやるやらないで絶対に意見分かれるじゃん。
だって、そもそも選択肢が二択しかない話だから。
そして、話題が出ると実際二つに国民で意見分かれてるじゃん。
これって、誰かがメディアを使ってわざと意見分かれる話題で日本人同士を分断して、連帯感を持たせないようにしてる作戦のような気がするんだよね。
なんか、オリンピックから段階踏んで上手に徐々に分断させられてるじゃん。俺ら日本人。

あっ、そういや志戸は大学生だよね。
君ら、大学卒業したら10年くらいは奨学金借りてる人は奨学金払い続けなきゃならないけど、外国人留学生は日本から補助金が出て、日本で悠々自適に学生生活送れるんだぜ。
なんかちゃんとした雑誌の記事をネットで読んだんだけどな。
奨学金がきつくて結構、風俗通いながら大学行ってる女子大生っているんだな。
デリヘルで働いてる女子大生が中国人の男にHIVを移されたって記事が載ってたよ。
しかも、相手の中国人の男は自分がHIVって知っててわざと移したらしいよ。
色々と事情はあるのかもしれないけどさ。
お金欲しさにデリヘルで本番したその女子大生も悪いよ。
だけど、その中国人の男わざとHIVを移すってどういうことなの。
で、その記事ネットで少し出てすぐに消えたから。
あとな、そういう子が自分が感染してると気づかずにマッチングアプリ使ってパパ活してたりするとな。
マッチングアプリがHIVとか性病の感染を媒介してる事もあるんだよ。
だから、マッチングアプリにさっきあんだけ俺は怒った訳。
金があって、若い子買うおじさんもおじさんだけどな。
人類はバイアグラではなく、インポになる薬を作るべきだったんじゃないかな。
セックスを子作り以外の目的するのは人間だけだから。
まぁ、とにかくそのHIVを故意に移した中国人の男のせいで、池袋ではその女の子以外にもそんな事例があって性的なサービスを受けた1000人くらいがHIVかかってる可能性があるらしいよ。
検査するまでその女の子HIV感染したの知らずに働いてたらしいし。
学費の為に結構本番もしてたらしいから。
俺はその記事見た瞬間、日本にいる中国人全員殺してやろうかと思ったよ。マジで。」

「えっ、蒔田さん。流石に言い過ぎですよ。
でも、その話マジすか。」

「マジだよ。マジ。大マジ。
理由がなくてただ中国人だから殺してやろうと思ったってんなら、話はおかしいけどさ。
俺のさっきの発言には理由があるからさ。
刑務所入りたくないから、そんな事はしないよ。
悔しいけど堪えるよ。
ただ、それくらい怒らないとダメだよ。
日本人って思うよ。
自分達の国の若い女の子めちゃくちゃにされてるんだから。
もう、自分達の国で国葬がやるやらないとか、やるって言った奴が真の日本人だとかやらないって言った奴が日本の事を本当に考えてる人間だ。
とか、もうそんなこと日本人同士で言ってる場合じゃないと思うんだよね。
日本の元総理大臣の国葬をやらないって事は日本人はまた一つ日本人のアイデンティティを失う。ってことだと俺は思うんだよね。
金を掛けてどうのこうのと怒るのであればそれは悪名高き電通さんに直接怒りをぶつければ良いと思う。
だから、形だけでも国葬はやった方が良いと思ってる。
日本人としてアイデンティティをまた一つ失うよりマシだから。
まぁ、これは俺の考えだからな。
日本人同士団結しねぇと、いつの間にか日本無くなってしまうかもしれないよ。

あと、
中国のウイグル人の虐殺の問題とか分かるか。
中国製品買いまくってるじゃん。
俺たちの国、日本ってもうしばらくダメだと思う。
裕福な暮らしは出来ないと思うよ。
そんな時、日本人同士で連帯して助け合わないとどうするの。
すぐに乗っ取られるよ。
例えば、いつの間にか中国共産党に日本が乗っ取られたら、考えただけで恐ろしいよ。
第二次世界大戦の時、日本は満州事変したり満州を植民地にしてたからね。
その事を持ち出されてめちゃくちゃにされる可能性はかなり高いよ。
ウイグル人の虐殺問題はちゃんと調べてみた方がいい。
世界でこんな事が起こってるなんて信じられない。と思うと思うよ。
それくらい、ひどい事が行われてる。
陰謀論。とか言ってないで。
本当に目を覚まさないとね。
たしかに日本は清潔で治安もいいよ。
でも、本質的な意味で
この国が安全だっていうのはもう幻想かもしれないよ。」

「あっ、はい。」

やり過ぎてしまったかもしれない。
志戸くんは背筋を丸めて、シュンとして下にうつむいてしまった。

「ほら、俺たち進撃の巨人好きだろ。
あれって、ディストピアものなんだよ。
つまり、巨人に食べられたくない人類が巨人の恐怖から自分達を守る為に壁を作ってその壁の中で管理されて生きていく。ってところはディストピアそのもの。
だけど、進撃の巨人は巨人に恋人とか友達とか親とか食われちゃうじゃん。
そこでさ、俺の母ちゃんを返せ巨人。
巨人共、一匹残らず駆逐してやるんだ。
母ちゃんの仇を取るんだ。
とかっていう感情とかドラマが生まれるじゃん。
だけど、本当のディストピアってそんなドラマないと思うんだよね。
ここの職場もそうだけどさ。
出勤して、体温測って測った体温を表に記入して、マスクして、店内放送でお買い物の際はソーシャルディスタンスのご協力をお願いします。
ってずーっと言ってるじゃん。
これこそ、ディストピアそのものだと思うんだけどね。
現実のディストピアにドラマ無しだから。
で、こんな変化ない毎日送ってるとつまらないから病んでくるじゃん。
精神科とか行くと簡単にうつ病の診断をしてくれて、楽になりますよ。とかいって精神安定剤くれるじゃん。
それって、合法的なだけで俺はその本質って覚醒剤とかとなんにも変わらないと思ってるけどね。
でさ、大多数の人より少し個性的なだけで発達障害とかすぐに言ってまた合法的に薬漬けにしようとするじゃん。
そうやってクスリと病名で人の意志を奪って、生きる人間家畜を作ってく。
メディアや有名人や病院がグルになってね。
ふざけんなよ。
ってなるよ。
俺らは意志のある人間だつーの。
人間それぞれ違うんだから、悩んで当然。苦しんで当然だよ。
なんか、傷つくの良くないみたいな風潮いつからだよ。
バーカ。って思うわ。
もっと、傷ついていいんだよ。
つうか、もっと傷付けよ。
傷ついた分それは誰かを愛そうした証、何かを信じた証だろって。
行動した素敵な自分の人生の足跡だろ。
何を簡単に手に入る楽しい事ばかり求めて生きてるんだ。
たまに楽しいからその楽しいことの為に人は頑張るんじゃん。
人生とか感情を怠けるの辞めろっつーの。
もっと、ジタバタして良いんだよ。
つうか、ジタバタして疲れるから、面倒くせーから面白いんじゃん。
そのうち、自主的にベットに寝たきりになってVRゴーグルをつけてチンポにテンガを付けて生活して下さい。
みたいな世の中になるぞ。
クソが。
それで人生生きたって言うのかよ。
そんな意志のない人生クソ食らえだ。
何が幸せだ。
何が愛だ。
何が自由だ。
何が平等だ。
全て人の思考や思想を奪う都合良い戯言だ。
耳障りの良い事言って、騙そうとしてんじゃねぇぞ。
何が新自由主義だ。
クソ外道のリベラリスト共が。
クソ、共産主義者共が。
そんな耳障り言い言葉だけを信じて生きてりゃ頭おかしくなるよ。
自分がなんでこうしてるいるのか。
とか、
自分はこれの為に生きているんだ。
とか、
自分の意志を説明出来ない人生ほど虚しい事はないって言うのをもっと感じろよ。
だって、本当に最近人が人間に見えない時あるぞ
昆虫に見えるね。なんか、人型カブトムシとか人型カマキリとかそんなんに見える。
マジで、気持ち悪い。
多分、生きてることに意志を意識を感じないからだと思う。
みんなスマホに意識を吸い取られてるみたいに見えるよ。
その人達が悪い訳じゃないだろうけど、
いい加減に目を覚ませ。
って思うよ。」

「蒔田さん。
ヤバいっす。
声デカ過ぎます。」

買い物客がまばらな店内に目を覚ませ。
と言った自分の声が虚しくこだました。
レジの人たちが意志のない目で遠目にこっちを見ている。

「あっ、わりぃわりぃ。
つい熱くなっちまった。」

志戸がかなりバツが悪そうな顔をして俺を見ている。
瞳の奥には俺に対する軽蔑が薄く滲んでいる。

「あっ、そういや。
蒔田さん、もう、吉祥寺のサンロードに本売りに行かないんですか。」

「いかねー。
もう、やらねぇ。
登録販売者の試験があるっつったろ。
試験勉強しててそんな時間ねぇよ。
現実、生活が優先だよ。
人生何事も片手間でやれる事なんて何一つないんだよ。
たかがアルバイト一つとってもそうだよ。
あと、もうなんか夢を追うとか、芸術活動とかもうシラけたわ。」

「えっ、なんでシラけちゃったんですか。
本のタイトルってギターと散弾銃でしたっけ?」

「おいっ、志戸、殺すぞ。
俺の本のタイトルはギターと散文詩だよ。
今はやってなくても俺にとって最高の本であることは変わらない。
人の本気をイジるんじゃない。
そんなセンスのないエイティーズの3流アクション映画みたいなタイトルじゃねえ。

シラけた理由。
なんて、言えばいいの。
なんかTwitterとかまぁもろもろのSNS開いたら気持ち悪くなっちゃって。
まぁ、始めた俺が全部悪いよ。
いい大人が自分の事ばっかし語ってアーティスト気取ってる感じとか。
なんかいつまでダウンタウンとかエックスジャパンとか見てなきゃいけないのかなぁ。とか。
あと、SNSに子供の写真アップしてるいいね貰ってる親とか見てるとマジ吐き気する。
なんかそれ、キッズポルノと本質は同じだと思うっていうか。
なんか、もうこの国の方々の感性に俺はついていけないし、なんか凄いこの国の国民である事が俺は恥ずかしい。
この国の流行ってる絵とか音楽とか小説とか映画とか写真とかみんな自分自分って言っててる気がして気持ち悪くてさ。
なんかあんまり面白くないな。
自分を知ってくれ、自分を愛して、自分を見てとか。
しかも、大体いい大人が。
なんか病んだものとか、ぶっちゃけたものとかを出せば、なんでもさらけ出せばイイみたいな感じがなかり気持ち悪いな。
とくに女のアーティストの性をモチーフにした表現が気持ち悪過ぎてダメだ。
盛りのついたメスみたいな歌とか文章とか写真とか絵とか。
だからなんか
この国のメンヘラの変態感がアートみたいな感性が俺にはもうついて行けない。
なんか、せっかくアーティストやらせてもらってるのに、自分以外に興味がないのはなんかちょっとね。
ハートに響かないよね。
希望を感じないものはなんか最近嫌なんだ。
10代の時大好きだったけど、椎名林檎とかその権化だと思う。
実は中身が全然ないっていう。
多分、ギターを持った巨乳だったから、10代の俺のみたいなアホな男子を熱狂させたんだよ。
エレキギターを弾く隠れ巨乳。
それが新しかったんじゃない。
多分、歌というよりはパイズリとフェラチオでのし上がった歌姫なんじゃない。
この国のAV女優を増やした原因の一つは椎名林檎と浜崎あゆみだと俺は思ってるよ。
まぁ、
そもそも、スマホでAVを見れるようになる時代だからまぁしょうがないんだけどさ。
なんかね。
セックスをここまでカジュアルにしたらそりゃ少子化進むよね。
だって、子供が出来るんだよ。
セックスってもっと神聖な行為にしてほうがよかったよね。
もう、本当にこの国貧しくなってきたんだなぁ。
って思うよ。
人間、食いもんと性の事ばっかり言い出したら終わり。
それ、うんこ製造機だから。
俺、今、勉強しててそうだもん。
机に座って過去問解いて、過去問解き終わったら、試験対策動画見ながらお菓子食べて、寝る前にスマホでエロ動画見ながらちんぽ触わりながら、女とやりてー。
女に触りたい。
みたいな事しか考えてないよ。
で、家賃と食費のためにここでバイトして。
それって非常にもう人間なのかな。
って感じがする。
ただ、消費を煽られてすることないから多分、そんなにお菓子も食いたくないし、ちんぽも触りたくないんだよ。
だけど、アホだから考えずにそんなルーティンで生活して寝るだけ。
AIに洗脳されてエロ動画みなが、ちんぽしごかされてる。しかも、セルフで。
考えずに日々を過ごしてる。
こんな意志のない人生。
マジ、無意味。
下らない過ぎる。
本質的に死んでるのと何が違うの。
こんな死んだ状態で活動してても仕方ないかなって思ったからシラけてやってないよ。
いちお、自分なりにプライド持ってやってたから、こんなショボくれたクソみたいな気持ちで本なんて売りたくない。
写真なんて撮りたくない。
買ってくれた人や俺の撮った写真を喜んでくれた人達が俺の財産だから
その人達に恥ずかしくない自分でいなきゃダサい。
ハートない状態で芸術はやれない。」

「でも、蒔田さん。
勉強頑張ってるし、めちゃくちゃ働くじゃないですか。
自分のこと過剰に下げ過ぎじゃないですか。」

「他の人は知らん。
そう言ってもらえるのはありがたいけど、俺がクソと思っている以上クソだね。
別に他人が俺の事をどうとかは関係ないよ。
俺にとっては俺の人生を意志を持って生きてるかどうかが重要だからさ。 
でも
その気持ちは嬉しいよ。
ありがとう。」

「でも、蒔田さん。
そのSNSの人の事を悪く言うのはどうかと思いますよ。」

「えっ、なんで。」

「なんか、蒔田さんの言い方が嫌でした。
椎名林檎とか浜崎あゆみの事悪く言うのも完全にただの偏見じゃないですか。」

息子くらい歳の離れた男の子に真剣に痛いところを指摘されて段々と恥ずかしくなってしまった。

「アートつーのそういうものじゃねぇーんだよ。」

「でも、なんかその蒔田さんの言い方は蒔田さんの嫌いな共産主義者と本質的には同じな気がしますけどね。」

「うんだ。このやろう。
お前に何が。」

と言いかけてやめた。
これじゃあ、俺が若かった時嫌いな大人と同じ事をしている。
その歳の取り方は受け入れたくない。
ガキに一本取られた。
まぁ、ガキだったのはどちらかと言うと俺かもしれないが。

「ふーーっつ。」

深く深く深呼吸をする。

「スマンな。
志戸、なんか今の言い方響いたわ。」

「いっ、いえ。
蒔田さんの思うアートってどんな事なんですか」

「まぁ、花咲じいさんみたいなものよ。」

「どういう事ですか。」

「花咲爺さんってさ。
自分の殺された愛犬を焼いた灰を真冬の枯れた桜の木に撒いて、その灰が実際に桜をつけて、見ている人達を喜ばすって話なんだよね。
もしかしたら、実は桜なんて本当咲いてなくて、見ていた人達が花咲じいさんを見て勝手に自分達の枯れた心に桜の花を見ていただけかもしれないんじゃないかな。ってね。
だから、アートというのは自分という存在を使って他者を楽しませる為に生きる人の事。
究極の利他による生き方というか。
金にはならないが、人生でアートに全てを捧げた人間は幸せな人生を約束されたようなものだと思ってる。
つまりはアートは作品と共に自分が人の事を喜べる人間に共に成長していくって事だからさ。
俺はどうしようもない人間だからさ。
ロックとか写真とかギターと散文詩っていう自分作ったの本を買ってくれた人とかのお陰で、このクソみたいな人生を人間として生きていけれるんだ。
俺っていう存在を使って
人に楽しんでもらえるならなんだってやりたいよ。」

「蒔田さんはなんで、その生き方をしようと思ったんですか。」

「高校の頃さ。
初めて友達が出来たんだ。
それが嬉しくてクラスメイトの写真を撮るようになった。
高校の修学旅行の時、当時の担任が入院する事になって、修学旅行の写真を撮りまくって、担任が退院した写真を見せようと思ったんだ。
せめて、修学旅行の空気だけでも味わってほしくて。
それで、退院した担任に撮った写真を見せたら本当に嬉しそうに蒔田ありがとうな。
って言ってくれたんだ。
その事が
自分がした事で誰かが喜んでくれた事が
初めてで本当に嬉しくて、この生き方になった。
なんかその時感じた気持ちがずっと忘れられなかった。」

「なんか、イイっすね。
そういうの。
将来俺やりたい事とかないから、なんかそいうのイイと思います。
蒔田さん、試験終わったら、また始めて下さいよ。
シラけてやめたらもったいないですって。」

「ありがとうな。
やっぱり、大人が元気ねーと若者も元気でねーよな。
試験終わったら、また本売り行くし、またカメラ持って写真撮るよ。
お前の枯れ木にも花咲かせられるよう頑張るわ。」

「うわっ、ダサっ。クサッ。」

志戸がマスクの前に手をやって鼻を隠すように笑いながらそう言った。

「おい、こらテメー。ふざけるなよ。
なんださっきの心通じ合った感じの空気を壊すんじゃねぇ。」

「なんか、そういうの疲れるんすもん。
あっ、蒔田さん。
もう、18時ですよ。
上がらなくてイイんすか?」

ケツのポケットからスマホを取り出して、スマホ見ながら志戸が言った。

「マジか。お疲れ様。
また、来週な。」

手を軽く振って、志戸に背を向けて小走りで歩く。

「蒔田さーーーぁん。」

歩き初めて3メートルくらい進んだあと後ろから志戸の声が聞こえた。

声にビックリして後ろを振り返ると志戸が口からマスクを外して手に持ったマスクを旗のように降っている。
振られた白いマスクがまるで白旗のように見える。

「どーしたー。」

売り場に俺のデカい声が響いた。

「今度、吉祥寺に買いに行きますよー。
ギターと散弾銃ーー。」

「だから、ギターと散文詩だ。バーカ。
じゃあ、試験終わったら吉祥寺で待ってるわー。
お疲れー。」

「お疲れ様です。」

志戸が若者らしく屈託なく笑顔で俺に手を振っている。

俺はもう一度背を向けた。

掛かってこい現実この野郎。

たとえ、日本の未来が暗くても
俺は今日を忘れないぞ。
誰かを楽しませる為に俺はこの生き方を選んだんだ。


俺の名前はパンク。
39歳、自称芸術家だ。
もう一度立ちあがろう。

俺の名前はパンク。
39歳、芸術家だ。
やっぱり、芸術は表現活動はこれだから辞められない。


これをするために。
誰かの魂に火をつける為に俺は生まれてきた。
これが、俺が俺の人生を生きる意味だ。
俺の意志だ。