「蟹のルンバ」鐘勢

2022年01月27日

こないだ
僕のとこにも神の啓示があったんですよ。
あれってほんまにあるんですね。
頭の中にドーンッと
目で見たみたいに言葉が聞こえてきて。
神様が言うには
僕の直してほしいところを
近くにいた天使たち何百名かに
聞いてくれたらしいんですけど
第1位は
性格じゃなくて顔らしいよ。ですって。
だから僕
困った時の神頼みじゃないんですけど
ちょっとこっちはお休みして
整形手術のほうにシフトしようかなと思います。
と、
いつも行ってるカウンセリングの先生に相談したら
先生が言うには
それって
神の啓示じゃなくて
天使たちのツイートまとめなんじゃないですか。ですって。

俺は次回の予約をしてNIK口で降りた。
モヨリダヨ。
泡のPを口ずさむ。
「あわわあわわはスポンジBB」のフレーズが気に入っちゃって
あわわと歌いたいが為に少し遠回りしながら帰っていると
MDR川の川沿いまで来ちまった。
読んで字のごとくの色調の川でいつ見ても
エグいなーと思える一川だ。
MDR川は線路の方まで近付くと
そのあたりだけ川面の土手まで下りられるようになっていて
下りてみたら一瞬ええ感じを味わうことができる。
しかし
そのええ感じを半端ないエグさが抜き去っていく。
あの川底にキラキラ光るのは包丁?
うふふ。

ふと目線を変えると
俺は土手と水面の間のある一点から
赤い光線がうっすらと出ていることに気付いてしまった。
え。
なになに。
エグいやん。
俺は赤い光線に相当警戒しながら近づいたが
至近距離への到達に成功すると
どうしてもどうしても
触りたくなって触ってみた。
驚くべきことに赤い光線とは
物体であり
赤というか朱色のような色合いで
その表面はなめらかではなく
不規則にごつごつとしていて
しかも安全だったぜ。

その細くて固い糸のようなものを
下に引っ張ってみたが
下には、ほぼ、動かない
逆に上に持ち上げたところ驚くほど軽く持ちあがったら、蟹。
赤い糸の先端には小さい沢蟹がついているというか、
それは蟹そのものであって異常に長い片方の鋏だけを
ロンゲスト鋏を天空に掲げていたのだ。
その先端、つまり鋏部分はどこにあるのか肉眼では全く分からない。

つまり
これって。
運命の赤い糸って硬かったんや。
そしてこの先に俺の運命の人がいらっしゃる。
というロマンチックなことを思った。
凧揚げスタイルで。
今すぐリールみたいに巻き取って
運命の真相を釣り上げたいが
いかんせん甲殻類の硬さである。
細いのに、しっかりしてはるわ。
持ち上げる以外どうにもならないので
しばらく自分の身長で出来るかぎり
限界まで背伸びをしたりジャンプしたりして
運命の赤い蟹を空高く突き上げていると
一回、何かにひっかかった感じがして
そこからは、全く下に下がらなくなった。
これはまずい。
このままでは蟹が水面に浸かれない。
それはいくらなんでもかわいそうだろう。
だってそうちゃうんか。
かわいそうやんけ。
と自問自答していると
どうしてもどうしても
元に戻したくなって
上下の綱引き
あるいは大きなかぶのような感覚で、
全体重全身全霊をかけて引っ張りまくったら
や、やめろや、やめろっ
って、
はっきりと聴こえる小声が脳内に直接聞こえてきた。
これは神の啓示なのか、
天使のツイートなのか
そんなん知らんやんけ。
って、
おかまいなしに引っ張りまくったら
なんかすごい大きい音がして
何かがどっかで落ちた。

その時は啓示もツイートもなかったが
すぐに察したぜ。

でも

急に慌てるとあれなので

俺は

まず

泡のPを口ずさんでから

少し早歩きで土手から離れたんだ。






鐘勢