「詩は死に似ている」椿美砂子

2023年07月09日

 詩を書きだしたのは物心ついてからだ
幼い頃から人が死んだらどうなるのだろうと
不思議で仕方がなかった
 子供部屋には本棚があり絵本がいっぱいあった
著者は生きている人、この世にいない人
でも不思議だったのは絵本の中には確実に人がいて、話しかけてくれるのだ
それは伝言のように
 詩集は詩人である実家の元に毎日のように届いたのでポストに届けられたそれを父に手渡した
 父はペーパーナイフや鋏ですうっと封を開けすぐ読み出す
お休みの日は私はそれを隅から隅迄読んで過ごした 父がペンで線引きをしている箇所は何度も読み返した
 何故ここに線が引いてあるのだろうと
 詩を読んでいるうちに
死ぬってどんななのだろう
生きてるってなんなのだろう
もしかしたら自分はこの世に存在しないのではないだろうかすら思った
 詩はそんな想いに駆られる書物だった
日曜日には図書館によく父は連れて行ってくれた
自転車で二人乗りして成城図書館に向かった
絵本や少年少女名作シリーズや図鑑に夢中で
帰りに図書館の、前にある雑貨屋さんで
ヘアピンや小さなノートを買って貰った
それが子供の頃の休日の過ごし方だった
 パパもいつか死んだりするの?
と幼い私が訊くと
パパは死なないよ
大丈夫だから、美砂子が居るからパパは死なないから 心配しないでと言った
 詩を書く人は詩は死だと言う人が居る
私は死んだら無だと知っている
ただ思い出した時に人は無ではなくなるのだと思う
 私の夢は誰かが思い出してくれるような詩の一節を作れたらいい
凄い大きな夢だ
夢は大きな方がいい
見失わない為に





椿美砂子