「貧者のタクト」馬野ミキ

2022年05月06日


この3日間で
詩以外に
音楽と絵を教えた
絵についてはその日、随分とぼくより知っていた
だいたい楽しそうだったのだ
日中はそのように概ね笑って過ごし
夜については辛酸をなめ
気分転換にAmazonでプラスチック製の指揮棒をぽちり
次の日それが玄関先に届けられて
箱を開け
タクトを握り
恥ずかしかったなあ
思い切り振りたいけれど
演奏する人が誰もいないなんて恥ずかしいこと
けつの穴に小指の第一関節を入れられるより恥

だってびびるほど孤立してるじゃないか
ひとりだ







アマデウス、僕ならば指揮台から降りて自由に歩き回りたい 
ムーンウォークしたり
第3楽章辺りからはもう飲み始めたいな
街角のどこでもタクトを振るう、そういうYoutuberはどうだろうかと一時思案
渋谷のスクランブル交差点や
駅のホーム
業務用スーパーのレジの列
コンビニから出たきみの背な、その電信柱の上で
西東京の雑木林で切株の上に立ち
せかいを、
透明であるその空気の背景を見通す

振動を

天道虫の羽根を動かし移動させ
草花の成長を促進し
日を昇らせ
或は沈ませる
たった一度だけ全人類の財布のなかに、1円玉を平等に押し込むことが出来た
誰も信じなかったが
誰もが驚いた
そして誰もが忘れた

貧者のタクトを







馬野ミキ