「Hello, World.」菊池奏子

2022年05月31日

久しぶりに君に会うのに
来てゆく服がない

会えないのがつらすぎて
画面越しの再会なんて味気ないと
ちいさな小部屋にこもって
やり過ごしていたが
いささか こもりすぎてしまったようだ

陽の光が眩しすぎて
目を開けられない
紫外線のせいなのか
めまいがしてくる
鳥の声、虫の声、飛行機、車、バイク、芝刈り機の音があちらこちらでかしましい
鼻腔に塵か花粉が入り込んでむずむずするし
風は肌に触れて産毛をちりちりさせている

やっぱり外になんか出るんじゃなかった

少し思ったが
ここにいても何もないから
水の中をもぐるような気持ちで
踏みこんでみようと思う

身体の垢の落とし方
シャツのアイロンのかけ方
ほつれた裾のかがり方
リボンを綺麗に結ぶ方法
笑顔の作り方
時候のあいさつ
ほどよいお土産の選び方
そんな瑣末なことまで
すっかり忘れてしまっているから
身支度にとても時間がかかってしまった

君は変わらないだろうか
変わっているだろうか
どちらでいてほしいのか、自分でもよくわからない
目まぐるしく変わるこの世の中
角膜に映るのは刺激的でくだらないことばかり
そういったものたちから できたら離れていてほしいと思うのは
わたしの独善かもしれない

受け入れてくれなくてもいいし
そばにいてくれなくても構わない
君がそこにいてくれるなら
もうそれでいいのかもしれない

でも、次に会うその時は
もう少し
綺麗な服を着てくるから









菊池奏子