「safe」丘野こ鳩

2022年01月30日

居心地のいい 部屋で
沢山のお気に入りのものに 囲まれて
居たくない 服は5着でいいし
物は捨てたい メンテナンスできないものを置いておくのは最低
キャパを超えた部屋は要らない
食べものも 忘れるほどにはいらない
手をかけられないほどの肉も野菜もいらない
家の中に必要なものはそんなにない
部屋は狭い 置いておきたいものはそんなにない
手元は、狭い 私の手はとても小さい 私の手は
埋もれやすく 毎日の通勤や メモや 丸めたティッシュに埋もれていて
繋ぎたいときに繋げられない
繋ぎたいときに繋げられる手でさえあれば
ほかにはもう 人と暮らすメリットはない
死ににゆく義父を抱きながら
こんなはずじゃなかったねと義母が言っていた
初めて見た
えいえんが、解かれるさまを

私たちは繋がっていない
少し居心地がわるい
少し 物足りない
欠けている
空間にぽつぽつと個体が漂っている
若い個体 老いた個体 死んだ個体 幼い個体
足りていない ほんの少し
ほんの少しの
想像が
思い遣りが 声がけが 身振り手振りが
時には泣きながら 時には結んだ唇で
示さなければ、繋がれない
何らかの 示す理由の残された
隙間ばかりの 少しずつ欠けた部屋で
ペンに アルコールに浸した脱脂綿に 靴に 耳にかかる髪の毛に
手を 目を 声を わらいを かなしみを ためらいを
かけることでしか繋がれない
あなたに
あなたと
あなたがたに
あなたがたと
わたしたちが つとめて、
細々と繋げた透明な糸の
脆く、限りないと
信じようとし続ける
居住空間を
どういうつもりかもわからずに
往来する人間の肩
隙間の照り返しを
その閉じたり開いたりするのを まだ
まざまざと 見ていたい





丘野こ鳩