これも愛やろ、知らんけど ④頭ぽんぽんの詩 河野宏子
自分を少し汚すことで
生まれる余裕もある
"山賊ちゃん"
向かいの席の若手のことを
心の中でだけそう呼ぶと
罪悪感が生まれて にっこりできる
山賊ちゃん
業務中のサングラスや
肩甲骨まで見えるオフショルが
事務職に相応しいかどうかは
ここでは置いといて
挨拶は無視する 通路は譲らない
物音がでかい
特に話し声がでかい
先週受けた二重手術や
新しい彼氏との昨夜のあれこれを
静かなオフィスに長時間拡散する
恥ずかしいのでこちらの耳を塞ぎたい
担当業務以外の仕事は一切しない
来客がお手洗いの場所を尋ねても返事すらしない
流石に注意したら
『はぁーい おかーさん』ときたもんだ
あたし生まれつき人見知りなんで ときたもんだ
そっかー 人見知りですかぁー
そうやって担当業務外の仕事を
押し付けるわけだ おかーさん に
おんなじ時給もらってるのにね
山賊ちゃん
それって"かしこい"つもりなの?
にこやかに来客の対応をしても 別に得はしない
重役たちは甘やかしているが
甘やかしてもわたしの時給は増えない
わたし おかーさんだけど
ずるしてる子は、可愛がりたくないの
仕事の愚痴はさておき
詩人ばかりの酒の席で いい具合に酔うと
みんなが愛おしくなってしまって
こんなしんどい世間でよく生きてきたねぇと
おかーさん、たまらなくなって
頭ぽんぽんしちゃったけど
帰りの電車でほわほわしながらツイッタ見てたら
今これダメなんだって知ってさ
勘弁してよって
かつてわたしにセクハラたしなめられた重役たちは
こんな気持ちだったか!
<許可なく相手の身体に触るのは どんな理由があってもいけない>
すごくバツが悪くって
反省すべき?
しょぼくれる酔ったあたまを
春の夜の雨が冷やす
うん、きっとすべきだし
アップデートしないと
キモいって言われちゃうし 何より
生まれた時代のせいにしたらそれは
ずるい、もんな
ただのあいじょうひょうげんだけど
ずるせず生きてる可愛い子を
可愛がりたい、だけだけど なのに だけど
うちに帰ると
ぬいぐるみだけがわたしを待っていた
もふもふ ぎゅう