真魚を抱きしめていたい 泉由良
1
流星があまりにも頻く降るので傘を閉じて歩いた
旅路だと想定しながら家路を辿った
場所(space)が無い
住居(address)はあるが、家(home)ではない
旅に出るのは心だけで充分なのだ
それでもときに
木の下で眠る人生でありたいと思う
朝はランプで湯を沸かす
屈強な男に生まれついていたなら
炭鉱の奥へ入り
独りで生きることが出来るだろう
そこでは世界中の光が
私の眼に届いただろう
2
家に入ると時間が停止する
私の動作がどんどん床に落ちてもう跳ねない
ぴちぴち金魚
上着を脱ぎながら私が少し溢れてしまう
冷蔵庫を開けた場所にも私が溢れ落ちている
部屋のあちらこちらに私が散乱して
まるで水たまり
十九のときに身投げしたきみの写真を
自室に置かなくなってしまったの
即死とどちらがましだっただろう
考えると頬骨が軋むだけで泣けない
それは悲しみではないから
きみは派手な下着が好きだった
ガーターベルトをしていた
処女のまま死んだんだね
ときどき
きみの夢をみるために眠る朝がある
ぴつぴつ金魚
3
。あっ。。あ、泡、
あっ。。あぁ。。
。あっ。。あ、泡、
あ?
あわ。
泡がどうしたの?
お魚飼いたいんだよね。
僕が貴女の奥の奥まで指を入れてね
あわだよ
いやじゃないでしょ
いや、
いやじゃないんでしょう
いや本当は飼えないと思うよ?
服着てる?
私が何かを飼うなんて無理だって知ってるよ?
でも魚になりたいっていうかね、
。あっ。。あ、泡、。。
私バスタブにいるの。
服は着てる。
/息。
貴女はいやらしくされてしまうね。
/息。
/息。 ──眠った? ねえ、寝てない?/息。
/息。
/息。
To 21
Subject Re:
寝ちゃったみたいだから通話切るよ。
おやすみ。
──溜息。
/
4
最も触らないやり方で抱かれたい
詩がそれになりうることを感じさせて欲しい
だから幼い頃から足は開かず
年齢に見合わぬ文学を嗜んできた
嘗めるかのように
階段の隅で
5
出会いたいということ
触りたいということ
抱きしめたり話し合ったり
他者を求めたいとき
私は私の周りに空気が満ちているので
とてもそれを突き抜けられない
水槽に浸した私の手が
充填されている水を抜けようと侵食して
触れたかったさかなにどうしても触れられないように
哀しい
けれど
接触なんてたかだかそれだけのもの
私は
ただ
真魚を抱きしめてみたい