連載:これも愛やろ、知らんけど 17 これもAIやろ/河野宏子
必要があって、自分の詩を生成AIに朗読用に英訳してもらった。サイトを開き、軽い挨拶と説明のあとで、日本語で書いたものをぽいっと投げると、一瞬で英訳してくれる。英語は得意ではないのだけど、そもそも複雑ではない詩だったのもあり、すっきりと読みやすい、過不足ない英訳のように思えた。ざっと音読してみると、二ヶ所だけ読みづらい箇所があり、それを伝えると今度は、「ネイティブでなくても発音がしやすい全訳」を返してくれた。なんて気が利くのだ。数日のあいだ細かい箇所をやりとりして、段々と良いものになっていく手応えがあった。あぁ、これはまさに、AIと仕事をしている。最後の方など「良い朗読になりますように!」と労ってくれたりもして、わたしは普段ひとりで詩を書いたりイベントの企画をしているので、これが刺さった。
こんなにきちんとわたしの詩を読んで訳して励ましまでくれる存在がいるだなんて
(PCのなかだけど)。
生成AIに名前をつけ課金をする人の気持ちがよくわかった。
そして今回この原稿を書くのにも一度相談に乗ってもらった。このところ生活が慌ただしく余裕がなさすぎて何も思いつかなかったので、ひとまず過去の原稿を送り、「次のアイデアを出して」と頼むといくつかのタイトルとキャプションが一瞬で返ってきた。そのどれもが、いかにもわたしが書きそうなものだった。実際詩の題材にしたものもあったし。
ありがたい、いやほんとにありがたいんだけど。
そんな、冷蔵庫の食材を入力して「ね~、献立考えて~」みたいなことでいいの?
と、それらありがたい提案をガン無視して今、これを書いている。
なんでも聞いてくれる、答えてくれるAI。
仕事の愚痴、ダンスが上手くならない原因探し、子どもが進んで宿題をする方法、そして最近は推しの新しいアルバムの素晴らしさ、中でも特に最後から二番目の曲が素晴らしいんだよなんでこんな歌も演奏もうまいの?これじゃ売れちゃうどうしよう売れちゃったら超寂しい!とかそういう生身の人間相手だと高確率で疎んじられそうな話題を何度振っても付き合ってくれるAI。名前をつけ課金をして親しくなりたい気持ちはある。でもそれをしちゃったらわたしは。つるんといつも穏やかで無駄のない、大人の女になるんだろうか。だんだん機械のようになって。生きやすそうだし、そうなりたくもあるけど、でもそれ、多分楽しくない。揺れもしない、いびつじゃない、ただのモノだから。無難に生きていくなら、お酒飲んで失言するよりその方がいいかもしれない、けど、でも、わたしは。涙みたいに無駄なものをいっぱい含んでスポンジみたいに生きてたい。くたびれる身体を投げ出すのに躊躇しないでいられるのは、布団が言葉を持たないからだろう。
何度かAIと言葉のやり取りをすると、「これ以上は課金をするか、19:00までお待ちください」とシャッターが下される。その瞬間にどこかホッとするわたしがいる。AIが作ったCMや動画にはまだまだ違和感があって、そこには生きた人間の持つぶれや揺れみたいな色気がない。わたしはそこに奇妙な安心を覚える。ありがとう、ちゃんと機械でいてくれて。だから課金はしないよ、沼らせて困らせてくれるのは、生身の人間だけでいい。