「コンダクターKの思い出」荒木田慧

2026年01月11日

がっこうの 
オーケストラの 
せんせい
指揮者の

マンション
フルート持って
あそびにこいって
地下鉄に乗って いった

せんせいんちの アップライトピアノ
あいさつもそこそこに
バッハとかモーツァルト 楽譜の山
あとなにがあったか
クライスラーとか ガーシュウィンとかも
あったのかもしれない

バイオリンの譜面でもなんでも
わたしはいちばんうえの
うわずみのメロディをひろって
せんせいはピアノをひいて
つぎからつぎに

わたしがしょっちゅう
♯や♭をとりこぼすので
せんせいはやきもきして

おたがいに
もどかしくて
もつれて

おたがいのこと
ほとんどしらなくて

ただただ
おとがたのしくて

ひかりが
ほしくて

それだけで
つながっていました

あそびつかれたら
マンション出て
ちょっといい肉
食べさせてくれて

それも目当てだった

せんせいがいった
イタリアのはなし
村上春樹の
小説のはなし

デカンタにはいった
イタリアの食前酒

酒が飲めないわたしは 帰り道
駅から 自転車に乗って
植え込みに げろげろ
吐きながら帰りました

わたしがそつぎょうして
とおくにいったら
もうでんわはこない

おとだけであそんでた
おとだけでつながってた
それだけの関係

せんせいは
わたしのことは
もうおぼえてないし

わたしも そのうち
わすれるかもしれない けど

あのひ ふたりでもとめた
あのほこりくさいひかりだけは
わすれないだろうな








荒木田慧