「また そこに夕陽が沈んでいる」中川ヒロシ

2025年09月08日

子供の頃、母は和裁の内職をしていて、キモノを作っていた。
ある日、その横でTVを見ていた小学生の僕は、みかんの汁を飛ばしてしまった。
キモノは当時何十万もした。僕はもちろん何度も謝った。
母は、僕の謝罪を聞く事さえせずに、慌ててシミ抜きをした。
そして、キモノを僕に見せて、「おまえの目から見て、どう見える?」と僕に迫って来た。
僕が「僕は何処にシミがあったか知ってるから、まあまだシミが分かるかな」と答えた。
母は裏のおばさんを電話で呼んで「真っ新な目で、このキモノ見て何か感じる?」と霊媒師のように迫った。
おばさんは「みかんの汁かなんか飛ばした?」と即答した。笑
あれから、どうしたんだろう。
あの日と同じ夕陽がまたそこに沈んでいる。 





中川ヒロシ