「パパ活」ヒラノ
金はある
オフィスは六本木だが博打はしないしキャバクラも何か苦手だ
酒と女の匂いと営業の下心と、それが透いて見える
居酒屋の方が居心地が良い
シャンパンとドレスの女より煮込みとホッピーの方が性に合う
耳の軟骨、分かりますか?
おじさんになると毛が生えるんです
それ、自分で見えますかね?
見えませんよ
これが嫌なんですよ、耳の軟骨から生える毛が気になってしょうがないのです
耳の中もそうですね、「見えない」これがおそろしいほどのストレスとなる
性欲?あります
あるのですが耳の毛の方が気になるんです
なんなら小人になってシャベルを握って自分の耳の穴に入って行きたい
待てよ?俺が小人になったら誰の耳の穴に入る事になるのか?俺が2人必要になるっぽいな
皆さんも耳の穴、探検してみたいとおもいませんか?
耳の毛、自宅で毛抜きを手当たり次第引っ張るもどうも上手くいかない
抜ける時の「プツっ!」という鼓膜に響く音が快感なのです
しっかしどれくらい生えているのかしら?知らない、見えないから分からない
困ったもんだ… ストレス
居るのよ、確実に生えてる
髭や髪の毛なんかよりそっちが気になる
嫁もいない、当然子供もいない
人間、1人じゃ繁殖出来ないでしょ?
しかし、耳の毛は気になる
見えない…
仕方なくマッチングアプリで女を漁った
俺のプロフィールは「エッチとか抜きでピュアなお付き合いが希望です」
何故か?金で買った女に耳毛を毛抜きで抜いてもらおうと思ったのだ
出来れば美人な女性に抜かれたいし、丁寧な仕事をお願いしたい
いや、ブスでもいい、とにかく耳毛を一掃してくれればいい
あの「プツっ!」という音が聴きたくてしょうがない
アプリに連絡が来た
「どんな感じですか?」というざっくりした質問だった
「週一でいいよ!」と送った
「いくらですか?」と返って来たので「月に20万でどうですか?」と返した
俺の要望に相場なんて無いだろう
剃られるのはちょっと違う
抜いた時の音が無い、抜いて欲しい、なんなら動画も撮って欲しい
ピュアな関係でしょ?
エロい事なんてどうでもいい、だったらそういう店に行けば良いだけであって、ではファッションヘルスに毛抜を持って行き「耳毛を抜いて!」と言う勇気もない
耳毛の実態、見えない、見た事が無いのがストレスの原因でこれが俺をおかしくする
「僕の耳毛を抜いてもらう関係です!」と元気良く返した
「超ウケるんですけど!それマジですか?」という返信
そりゃマジでしょ、俺は今セックスより自分の耳が、耳の軟骨が気になってしょうがない、そして「プツっ!」という音が聴きたくて仕方ない
下半身なんかどうでもいい、耳毛なのよ!抜いて欲しい
ほどなくして港区女子では無く、板橋区在住の女性と会う事になった、部屋も掃除した、ドトールで待ち合わせした
「初めまして!」気持ちの良いクールガイ、そう演じたかった
「それで、あの…毛抜き持って来てますか?」
「無いし…」
そっか、家に3本あるし、じゃあそれで「怖くない?大丈夫?イヤだったら言ってね?」
出来る限りのフォローをしつつ俺の自宅へ向かう
耳の写真を撮ってもらい拡げたティッシュに抜いた耳毛を並べてもらう
「うっそ?こんなに!」
「プツっ!」
この音が何度も脳に響く、最高だろ!
そんな不思議な関係が3ヶ月ほど続いたある日とんでもなく長い一本がティッシュに列んでいた
「あのさぁ、お前さぁ…」
「なんぼ払ってやってんだよ?」
「てめぇ、先週の仕事サボったろ!」
「ちゃんと抜きました!」
「じゃあなんでこんな長い毛があるんだよ!」
女の髪を掴み上げ耳元で怒鳴りつけた
「てめぇ他の男の耳毛も抜いてるんだろ!」
「ギャラ飲みはするけどあんたみたいなイカれた注文する男とかこの世にいないから!バカじゃないの!」
「あんた、この3ヶ月で1回だってご飯もエッチな誘いも何もしなかったじゃん!」
「いや、だってそりゃそうでしょ、嫌われたく無いし…」
髪の毛を握った右手を緩めた
とにかく俺は耳の毛に惑わされていた
彼女は俺からすれば看護師さんだった
それは看護師と言っても心療内科の看護師である
「あのさ、それってウチのこと好きってこと?」
「好きさ、だって耳の毛を抜いてくれるんだから…」
彼女は全力で俺に平手打ちをした
なんでよ?ギャラ払って毛抜きだってこっちで用意して紳士に対応していたのに、なのに…
何この長い毛は?
「だから!だからこの1週間でこれだけ1本はすっごい伸びたの!」
「ほんとに?」
「ほんとだって!信じてよ!」
そう言って携帯を俺に突きつけ先週の画像を見せてきた
「先週の耳の毛の画像あるから見て下さいよ!」
彼女はiPhoneの『耳毛』というフォルダを開く
無い、全部綺麗に抜かれている、間違い無い
確かに左右共に毛は無い
「なんかごめんね?ちょっと毛のせいで感情的になっちゃって…」
「私こそごめんなさい、ギャラもらてるのに手を出しちゃって…」
そうだよな、この子相当悪いぞ?フルスイングだぜ?
「あのね、どういう精神状態で俺の毛を抜いてたの?」
彼女はうつむきながらこう言った「好きだから…」
バカなのか?平手打ち喰らわせた直後だよ?
普通に左のほっぺた痛いし
確かに毎週水曜日は入念にシャワーを浴びAクラスだがベンツで彼女を向かいに行っていた、今日だって、クリードの香水をつけて板橋まで
それらは全て下心など一切抜きに耳毛による心理的トラブルの解消のためである
俺は仕事中ずっと耳の軟骨を触り続けていた、そういう自分が大嫌いだった
そもそもが純粋なお付き合いだと約束している
俺からすれば耳毛の人でしかない、美人でもなければブスでもない、耳毛の人なのである
え?今は?
彼女はスーパーから帰って来て俺の家のキッチンに立ってる
結婚しちゃった…
毛抜きを放り捨てて何回もキスをした
そしたら入籍しちゃった
今では彼女の口癖は「どれ、見せてみ?」である
何も問題無い、そもそも好きでも無い人に毛抜きなんか持たせないでしょ?
はぁ?俺ってあの時点で恋に落ちてたの?
認めたくない…
でも、今、幸せなのかもしれない
これがもっと育つなのかもしれない
OK!もっとガリガリ稼ぐわ、明日ショーメの時計買いに行こうね
愛してる!
でも、愛してるってなんだろう?
なんだろう?
平坦な毎日?
何でも無い日々?
子供が微笑む時?
子供?彼女の連れ子だよ
俺、パパになっちゃった
ダルいけど悪く無いよね
入籍したあとカポエイラを習わせてる
体を動かして歌って楽器を演奏する
が、しかしよ?金の力を使わないと耳の毛を抜いてもらえなかった俺に本当に魅力があるのだろうか?不安である
パパ活ってこういう物なの?
俺は毛を抜いて欲しいだけだったのに家族が増えちゃった
いや、時間においての居心地は悪く無い
正直、彼女に割く時間より息子にかける時間の方が多い
それで彼女が喜ぶならそれはそれで正解だろうと今は思っている
俺はこれから父親としてちゃんとパパ活出来るのだろうか?不安と期待が入り混じってる
ただ、耳の毛の心配はもう無い
※抜くをヌくに置き換えると不思議で汚い世界に吹っ飛びます
※板橋区は水商売のシングルマザーが多数住む街です