「病気の寛解」中川ヒロシ

2025年10月28日

僕が病気になって手術前夜、病院の廊下を歩いていた。
手術後、しばらく歩けないかも?なので、寝たきりにならないように。
全然知らないおじさんが話掛けて来て
「君は俺よりだいぶ重いな」と言う。
そして、そのおじさんはアメリカ株に投資しているらしく「君はアメリカ株をどう思うか?」
と聞く。  
「僕は明日の朝手術で、この病気は結構難しいらしくて、早めに寝たい」と言った。
それでも彼はアメリカ株の有望さを、僕に語り続けた。
やがて、10時消灯の病院の電気が、消えて
真っ暗な廊下を、自動販売機の灯りだけが照らした。
自動販売機の、Yakultだけが、売り切れていて、その赤の照明が病院の廊下に滲んだ。
Yakultのシロタ株が、癌に有効だと、みんなが信じているのだろうなと思うと、胸が締め付けられた。
それでもそのおじさんは、暗闇の中で、僕にアメリカ株の将来性を語っていた。
その時、看護師の人に注意されてベットに帰ったが、おじさんとLINEのアドレスを交換した。
おじさんは、その後も度々、癌が転移、再発して、その度に今も僕にLINEを送って来る。
僕は先月、突然、寛解を告げられた。
7年間、30回以上の膀胱鏡の検査があった。
人間は案外、死なないものだと思う。
僕は寛解したことを、なぜかおじさんに話していない。
告知されて辛かった頃、住んでいた橋を、偶然通った。







中川ヒロシ