「アンドレアのひきだし」荒木田慧

2025年12月17日

アンドレアのしゃべる日本語は コロコロところがる やわらかくこぶりな鞠のようで それ は 牛乳みたいな白と うすいカナリアイエローと わたしのすきな エメラルドグリーンの色 をしている 

 彼女が出て行った部屋に 居候をしているわたしは きょう 彼女の服を着ている 

 アンドレアの部屋の アンドレアのたんすの アンドレアのひきだしから わたしが勝手にみ つけた アンドレアのTシャツ 

 薄手でぼんやりした きょうの空と似たグレーの 胸にポケットとしみのついた Tシャツ

 縫製が悪くて ところどころから 糸がとびだして 

 彼女の白くなめらかな肌に きっとよく似合っただろうし わたしの7月に灼けた 乱暴な小麦 色の肌にも よく似合う

ときどき すこし離れた街へ越した彼女から 叔父さんの携帯に電話がかかってきて きょう アンドレアがわたしの名を呼んだので 電話に出た

おかあさん びょうき?

アンドレアはやさしい わたしより若くて 美人でやさしい 

わたしが去年 落ちていたとき 自分が故郷で 同じように落ちていて そこからどうやって這 い出したか わたしの前にすわって 教えてくれた 

19で故郷をとびだして めちゃくちゃ遠い国の だれも知らない街に来て すがたも言葉もち がう男たちに 酒を注いで金を稼いで

あなたはどれだけ 泣いたのでしょう

アンドレアのTシャツを着て アンドレアの声を聞いた タフになりたいわたしは この夏のあ いだじゅう あなたのTシャツを着ることにします 

あなたがひきだしに 忘れて行ったそれを 忘れたかったそれを 勝手にひっぱりだしたわた しは それがボロボロになって もうダメになるまで 責任をもって わたしの着る番を 果た すことにします






荒木田慧