「ピストルの弾を鼻に込めた話」湯原昌泰

2026年01月11日

 平成38年にもなってコンビニ店員をしている俺はもはやプロ、ではなくまったくのゴミで、たとえばレンジでパスタを温めれば爆発し、コーヒーマシンを洗浄しては爆発し、ポテトを揚げればフライヤーが爆発する。なので、「お前はもう便所掃除だけしてろ!」と鼻毛の飛び出た店長に一喝され、おかげでうちの便器は狂気的なまでに輝いている。

 ある日のこと、いつものように外でゴミをまとめていたところ、何かが重い。燃えるゴミのはずなのに、中にずしんと異物の存在を感じる。さては飲みかけのワインボトルか何かを捨てたバカがいるな、と中をまさぐってみると、ひときわ重い紙袋があった。これだな。ゴミ箱から出し、中を見て、すぐ閉じた。一丁の拳銃が入っていた。

 俺はそれを腹に隠してゴミ袋をまとめ、「すいません、なんか今日、腹の調子が悪くって」と嘘をついて早退した。家に帰り袋をあけ、鉛のように重い拳銃を取り出す。弾倉を外して中を見ると、中には4発の弾があり、2発は発射されたのか、歯の無い口のように空いていた。ふとその穴から風が吹いてくる。恐る恐る弾を外す。指で弾をこね回すうち、もしかしてこれって鼻の穴に入れたらぴったりはまるんじゃねぇか、と思いつき、弾を鼻に詰めてみる。冷てぇ。出した弾には鼻クソと鼻水がついていた。それを拳銃の穴に入れる。入れて、出して、入れて、出して。何度か繰り返すうち、それが弾と拳銃がセックスしているかのように見え、セックスをして、殺すのか。交われば、誰か死ぬのか。と、なぜだか涙がとまらない。

 俺はそのまま眠って翌日、近所の別のコンビニのゴミ箱に拳銃を捨てた。三島なら多分撃つだろう。あいつは撃たないなんて許さない。出てきた登場人物は全員死ななくてはならないと、本気でそう思う奴だ。思ったことを止められない。口だけですませる器量がない。あるいは中上なら、泣くだろう。持っているのに撃たない大人たちに、俺はお前らとは違うと言い、それでも何もできずに突っ立って泣く。中村は知らない奴を撃つ。優先席に座っているのを注意されたからとか、そんな理由で縁のない者を撃つ。そのうえで俺は、撃たない。今は行動が無効にされる時代だ。あらゆる行いは虚空に消え、あたりはあたたかい沼のようだ。

 その後、俺はコンビニに出勤し、「いらっしゃいませー」とやりながら、「トイレ貸してください」という客に、てめえの糞くらいてめえでなんとかしろと悪態をつき、「どうぞー」と言って、笑った。泣いた。




湯原昌泰