馬野ミキ第四詩集「有名な空」 読後感想 高田拓実
馬野ミキの詩を初めて読んだのは「子供の晩年」という詩集を買ったのがきっかけで、それが凄い良かった。音楽に喩えると3コードのパンクロック的な、難しい言葉や引用なんかも無いので目線が自分と同じ高さで、自分にもこういうの出来るかもと思わせるような、そんな親しみを覚えた。それから時を経て第三集「キム」を読んだ時は本当やられたって感じで今でもあの感動の震えは忘れない。
自分は今でもそうだが、詩集というものは古い時代の作品しか知らない。ミキ氏に近いものであると稲垣足穂の詩を先ず思い出したが、ミキ氏のは童話的ファンシーなものでは一切無い。
詩の大半は端的に言うと散文、ブログに書くような私的雑文である。しかし、散文、雑文の中に何の変哲もないのに取り替えの出来ないフレーズがあって、それが靴跡をベッタリと紙面に写すような、そんな衝撃ショックを受ける。
どんな人のブログにも詩的要素はあるのだろうか?まぁあるあるだろう。でもそれは美しい比喩だったりとか、小説っぽい仕立てにしてるとか、熱いメッセージとか、そんな雰囲気に錯覚するもの。
今回の「有名な空」に於いては、否於いても、現実は架空で架空は現実であるライン、多くの者が跨いでしまって行くその狭き異世界を広げ、露悪的で猥雑な臭いを体裁なく見せる。
その露悪は自分に対する免罪にも読めるし現代社会に投げた皮肉の石のようでもある。しかし、やはりわたしがネット上で散見する熱い、(現代語の方が近いから敢えて言い換える)「エモい」メッセージでなく、どこかヒンヤリと日陰に置かれ続けていたものだ。
そんな日当たりの悪い言葉だからこそ詩を読み取ることが出来る。それはずっと普遍的な事でもある。
何編かの一部を抜粋して引用してみたい。
一部分の抜粋だといまいち話しのあらましが理解出来ないかもしれない。が、それをわかりやすく伝えたい訳ではないので、あらすじを敢えて書かない。
それでも読みとどまるものがあれば引いて良かったと思える。
「三原台」
男組に加入した
PTA男組は、既に定年退職した人やフリーランサー、自営業者、父子家庭のお父さんたちで形成されていて集まりはいつも和やかで居心地のよいものだった
(中略)
プールの後に自販機のアイスを買ってあげるのが恒例になっていた
月に一度は回転すしに出かけ、息子は炙りサーモンだけを十皿も食べた。
「August」
地球の丸さを感じる
つぎの赤の信号で
しゃかいのなかで生きるということを知った
その街路の
葉が揺れることで南の風があることを知った
August
きみと
「バニーカクタス」
なぜ俺は、たった一つの大事なものを
もっと増やそうと思ってしまったのだろうか。
「withコロナ」
薬局や西友から
トイレットペーパーがなくなった
この人たちはシェルターに何年くらいこもるつもりなのか?
我慢の一週間ということで東京タワーがぴかぴか光った
コロナが来る前からずっと部屋にいたり
古代からずっとウイルスと共にいる人にとっては関係のないことなのかも
人間のいない町ははっぴー
(全引用)
「キムリメンバー」
法律は大きな事件が起きると変わることが多く
アートで社会が変わることは少ない
出演者しかいないライブハウスでたまに自分は、進路を間違えたのかなと思うことがある
ギターより日本刀のほうが役に立つのではないか
「ロドリゲスの眠り」
ソフトバンクショップは肉と血まみれの肌色と赤色のせかいになった
食肉工場のテーブルみたく
自分は三日間バイトをしていたことがあるので分かっている
そう死は特別なものではない
(中略)
やがて月は昇り
許可なく俺を照らすので
月を破壊した
もう地上にはたぶん俺たち二人しかいない
「躁転」
知っている街で軽く迷子になり笑える
女性が洋服を着ていても、すごく丁寧に集中して細かく繊維のすき間を見れば中身は透けている
(中略)
雨上がりの虹をみんなが盗撮している
ちゅんちゅん雀ちゅんちゅん大Dog、出会う動物すべてに
かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいすぎ
と言う
(中略)
気が狂っていない人のふりをする為にすること
あくび
瞬き
ストレッチ
ゴルフのスウィング
感じるんじゃない
観察するんだ
(中略)
友人の彼女の乳房でも 一瞬ならみてもよい
(中略)
一生懸命に文章を書くような人間は 安全な人間だからである
ねえ
信号はいま何色だろうか?
短歌の歌集の感想をnoteに最近自分は書いているが、好きな一首に自分なりの感想、解釈を付ける、そのような事はこれにはしない。
作品を語ると言う事は
読みて側の唯一の抵抗でもある。100%作り手が欲しい感想は無いと思うからだ。
しかし読み手の抵抗、大賛成である。大肯定であるが今回は語らないという抵抗を施したい。
あ、十分に語ってるか笑。しかも無茶苦茶引用してる時点で立派な抵抗だ。
言葉の無き場所を置いておきたい。先に引用した「息子は炙りサーモンだけを十皿も食べた」「死は特別なものではない」「友人の彼女の乳房でも一瞬ならみてもよい」と犯人が物的証拠を残すような言葉を見つめているだけで何か胸の奥が不思議と満たされていくのである。
最後、表題の"有名な空"というフレーズの入った「練馬インター」という一編の終わり
二人を見つけた
二人は俺に気付くことは無かった
息子は俯いて、多分任天堂3DSをしているのだろう
高速バスは練馬インターから関越自動車道に昇って
変形するロボットみたく翼を拡げて
有名な空へー
有名な空、有名な空 何処だろう?どれだろう? やはり語らなくていい。
自分の頭の上には東京都世田谷区梅ヶ丘の空が見える。車も通らないし誰もいないのに赤信号が青に変わるのを押しボタン式を忘れてずっと待っている。
