「ピストルを鍋に入れてパスタを茹でた話」湯原昌泰
「夜を照らすすべての明かりは灯台だ。君が一人じゃないことを証明している」なんて言われても、俺に友だちはいねえし、恋人もいねえし、金もない。空虚なことこの上なく、しかもいつも腹を下していた。平成40年にもなってコンビニ店員をやってるのは、ただ、飯を食うためだった。
詩をやめ、あるいは小説をやめたのは、まったく金にならないからだった。小説志望で本を出し、かかった金額30万。で、売れた冊数2冊。あまりの笑えなさに東京ポイントを貰おうと区役所に行った帰り。車椅子に座り、中野駅南口の改札前で震えるホームレスの老婆を見た。彼女には世界が見えているが、世界の方はどうだろうな。俺は声をかけなかった。誰も声をかけなかった。ただ、老婆を見た。それで、ああ俺もあの人と同じだと気がついた。本を出しても誰にも読まれないし、駅前に立っても誰も気づかない。だから俺は老婆に声をかけない。老婆だって俺に声をかけない。そして、作家の言葉は金にならないのに物価だけは上がり続け、煙草1箱900円。おにぎり1個260円。残った金120円。これじゃあ、生きていけない。俺は心底絶望し、ここで生きる才能はないのだと知った。
その俺の勤めるコンビニに、ある日一丁の拳銃が捨てられていた。紙袋に入った鋼鉄は重く、俺はそれを腹に隠してアパートに持ち帰った。部屋に戻り、袋を開ける。中に弾は入っていなかった。
弾がない拳銃ほど愚かな物もなく、まるで何かをやろうとしてもその体力がない俺のようだった。髪にコシがなく、爪は歪み、すぐに疲れて横になる。調べるとこれは鉄分不足の症状らしい。鉄か。そう思い、拳銃を見た。
拳銃を洗剤でよく洗ってから鍋にいれ、水を足し、火にかける。しばらくして煮立ってきたので中を覗くと湯は油にまみれ、ツンと鉄臭を放っていた。俺はそれを流しに捨て、鍋を綺麗に洗ってからもう一度火にかけた。流して、沸かして、流して、沸かして。五回も繰り返すとようやく水は綺麗になり、そこに1キロ280円のパスタを入れた。タイマーのセットなどいらなかった。1本食って茹で加減を確かめ、湯を切った。
作ったミートソースの味は大して変わらなかった。だがこれで不足していた栄養素を定期的に摂ることができると思うと、「すべての灯りは君が一人じゃないことを証明している」なんて言葉も前ほど悪くなかった。つまり、この言葉はパスタを食った後の俺に効く。拳銃のおかげで久しぶりにいいうんこをして眠りについたその夜。夜中に目を覚ますと、隣の部屋からパンパンパンと音がする。なるほど、暖房を切る春は音が減る。その分他の音が立つってのは当然の話で、何というか、泣けてくる。パンパンパンとやっている。死ぬ死ぬ死ぬと女が言う。あぁそうか、パンか。俺は思い、次の日仕事帰りにスーパーに寄って食パン1斤とピーナツバターを1つ。家に帰って拳銃を見つめ、貪るようにそれを食った。
