「漢字が読めねえから」ななりん

2026年03月18日

中学生の頃から
大人になるまで
私は下町で暮らしていた

おしゃれな町ではないけれど
職人さんが多い町だった

ある日
綺麗な大きい図書館ができた
新しくて
かっこいい
大学のキャンパスみたいな
建物だった

最初は物珍しそうに
いろんな人が来て
やがて
みんなが通う
人気の図書館になった

近所の主婦は
料理本を借りに
学生は
中高生優先席で勉強
オタクっぽいお兄さんは
パソコンコーナー

夏になると
ホームレスが
涼みに来ていたりもした

ある日
本を返しに行くと
いかにも職人という感じの
腕のところどころに
やけどの跡がある
ちゃきちゃきのおじいさんが
やってきた

図書館利用カードを作りながら
説明を聞いて
少し恥ずかしそうに言った


漢字が読めねえから

こんなのしか
読めねえんだけどよ

そう言って
有名な児童書と
歴史まんがを借りていった

これが
図書館の役割なんだと
そのとき思った

誰にでも平等に
開かれている場所

この辺りの職人さんは
子供の頃から家業を手伝い
進学せず
働き始める人が多かった

そういう人が
ある程度歳を重ねて
仕事が落ち着き
学びたいと思ったとき

いつでも
受け入れてくれる場所がある
それは
すごいことだと思った

金物や
鞄や
食器
家に至るまで

私たちの生活に
欠かせないもの

当たり前に思えても
そうじゃない

誰かのおかげで
私たちは
豊かに暮らせている

あの職人さん
きっと
これまで
たくさん働いてきて
それだけでも
すごいのに

「学びたい」と
思った気持ちが

とても
かっこよかった

図書館は
勉強ができる人のためだけの
場所じゃない

本当は
誰かが
もう一度
はじめるための
場所なんだ 







ななりん

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