「春の足音」西村太一

2026年03月20日

もう長いこと部屋に閉じ籠もっている。頭の中には春麗らかな景色が浮かんでくる。どうしてもって言われても、あたしあの人んちのことよく知らないから。あ、僕んちならここだよ。教えてあげて。本当は知っている筈。お願い。本当はほら、あそこの部屋なのは知っているんです。良い季節になってきたから、春の花霞のキレイなところへ連れ出したいんですけど。お兄さんちょっと一緒に誘い出すの、手伝ってくれませんか?1人では行けないの?それが、ちょっと顔見知りなだけで、家賃を戴いている大家の関係なんだけど。何やらそろそろ春の足音が聞こえてくる季節じゃないですか。あまり引き籠もりは良くないと思って。そうだねえ。良い物見遊山にでもなれば良いねえ。なんて絡んだあの方の話しから遠ざかっていく。何だ、行っちゃったの。で、気配が脳裡に浮かんだだけか。しかし何も無い日々だな。買い物はコンビニへ夜中に行くだけだし。あの青い矢絣の着物の芸姑さんは今年も出てくるかな。そうかあ。春かあ。なんて言っても、例年通り、何の予定もない春。 





西村太一

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