「きみ」危機とララ
2021年09月22日
「きみ」
初めてきみを見た時に
この人だって思った
服の下から
瞳の奥から
隠しきれない
匂いでわかった
まっすぐに近づくと
きみは頷いた
地下室のようなラブホテルの一室
白いシーツの上で
きみを裸にした
思ったとおりだった
きみが自分でめちゃくちゃに張り付けた
いくつもの絆創膏を
私はやさしく剥いだ
きみはうろたえた
全身で甘えることを怖がる子ども
傷をひとつひとつ
舐めた
きみは身体から色々な体液を流しながら
よろこんだ
ずっとそうして欲しかったとでも
いうように
何時間も経過していた
離れられないのだとわかった
二度目に会った時も同じようにした
きみは待ちわびていた
私が貼った絆創膏を
剥いで
舐めた
きみはよがり咽び泣いた
私なしに生きていけないのだとわかった
ばかの一つ覚えみたいに
同じ言葉を繰り返し
パーカーの帽子に
羞恥を隠して
同じ場所同じ時間に
待っている
わたしを見つけると
ほっとしたような表情を見せる
だんだん
きみのことが
始めから
きみのことが
裸にして
中途半端に剥がしては
そのままにした
私だけに見せた
愛おしい傷の数々が
蠢いている
取り戻した子どもの
まあるい瞳で
きみは私に懇願する
それならばどうして
近づいたのですか
その瞳は嫌いだ
だから
瞼に絆創膏を貼るね
だらしなく体液をしたたらせ
きみは待っている
わたしを
いつまでも
浮上しているのか
下降しているのかわからない
狭いエレベーターの中
懐かしい匂いがした
始めから
わかっていた
誰かが
きみの匂いを見つけて
瞼の絆創膏をそっと剥がし
その瞳を愛おしいと思ってくれる