「アリの話」02 大塚ヒロユキ
奇妙な揺れ方をする吊橋の上で、アリの意識は揺らぎはじめる。
頭が何倍にも膨れ上がり、恐ろしいほど比重の軽い液体で満たされたような感覚。今朝食べたマッシュルームのせいかもしれない。
茎がひょろ長く傘の小さな黒いキノコ。紫色を帯びた胞子。橋のたもとで夜を明かした髭づらの男は、それを聖なるマッシュルームだと言った。彼はアリのために小さなキノコオムレツを作ってくれた。
「一日の始まりはこれに限る」そう言って彼は、青く澄んだ空に太陽が顔を出すのを待っていた。