「かなたの戦火」究極Q太郎

2022年04月05日

街に
口を覆ったひとたちの群れも
見慣れて久しい。

そんなある日、とうとう私も流行り病を患う。
職場の都合で定期的に受けているPCR検査の結果が陽性だったと
旅先のウクライナでしらせを受けたのは二日後だった。
けれども症状がないので自覚がわからない。
ジェット・ラグにちょっと
酔ったような気分で
放心した頭からくらくら
悪の凡庸さなどが湧いてきて
狐に摘ままれるように
身につまされた。
悪気なくひとは
ゾンビになるもんだね。
そうですよ。なにしろ
「口裂け女はわたしだ!」
とはフローベルの慧眼で
いまとなれば誰もが口裂け女。
あまつさえその姿が
ドレスコードじゃないですか...

だいぶ前から
ひとびとは
お互いを腫れ物のように思いあって暮らしている。
そして今日び、いまいましい脅威としての姿が
ようやく符号したのだ。
ヴィールスとの戦いは
自由競争がけしかけたライヴァル(大名)との戦いの
延長戦にある。
そしてそれは切りのない戦いで
互いに疲弊してゆき
共倒れを待っているものが
あがりを吸い上げるのだ。
先日観た映画、イーストウッドの
『クライ・マッチョ』が
戒めていたこと...土俵に乗るな、と。
そしてウクライナへ
用もなく飛んだのはそのためでもある。
詩は自在だから
検疫にも機会にもひっかかることもなく
クライと踏むために。

夕方、電話がかかって来たのか
かけたのか。
その人は
滅多に行き来はしないが
電話は日課のようにしている。
日頃、暇にあかせて
たあいのないことをだべったり
互いの身辺のことや
世で起きていることについて
あれこれ話したり
世で喧伝されていることを
穿ってみたり...
テレビのニュースをみたらしい。
「さっきの感染者の数に入ってたんだ」
と言われる。
それはいつも交わしている
ジョークのように。

「(笑)数のなかから
見分けてくれて有り難うね。
闘病生活、頑張るよ!」








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