「かにかに合戦」恭仁涼子

2022年11月28日

ある日、男が蟹を届けた。
男は玄関のチャイムを押し、
宅配便です!
と叫んだ。
ダンボール箱には蓋がなく、毛蟹が丸出しになって
あたしに捧げられた。

あたしは毛蟹を持て余した。
どう食べるのこれ、詰み。
YouTubeで解体の仕方を検索した。
その通りにやりながら、
蟹味噌をスプーンで掬ってちゅーちゅーした。

一度海に潜ってごらん。
男があたしの肩に手をかけていう。
魚もいる、蟹もいる。
きみもきっと思うよああおいしそうだなって。
羨ましくはない?

羨ましい?
とんでもない。
あたしはおいしそうなんて
値踏みされて
消費されるのはごめんだわ。

値踏みされて消費されて解体された
あたしの蟹。
蟹を運ぶ男と
受け取り続けるあたしとの戦い。

あたしはそれを弔い合戦と名づけた。