「チチちがい」村山トカレフ

2022年04月27日

つきあいはじめてから数年が経ち、その間幾度となく肌重ね、気心知れ渡り、マンネリの中に安寧ありて、互いになくてはならない存在になっていた頃。
週末の喧騒のさなか、どこか浮き足立つ空気感漂わせた、駅構内の待ち合わせ場所にて女の後ろ姿みつけし。
数年の時の流れを経ても愛らしいその後姿に、屋外だといふのに悪ふざけの気持ちムクムクと隆起しせり、忍のごとく足音殺して近づけば女、気付かずにケータイの画面を操作している。

ニヤケ面浮かべつつ、「だーれだっ!」と背面より女の両脇すり抜けて、両の手を女の乳房にあてて今夜の閨事の予行練習とばかりに 揉みしだく。
刹那、「キャッ!」と女の嬌声ではなく悲鳴。「でかっ!」といふ揉み慣れた乳房との違和感に鋭く声を発するおれ。
振り向いた女は、幾度となく肌重ねた女ではなく、見たこともないまったく知らない女であった。

ファーストコンタクトが最悪であればあるほど物事は上手くいくのかも知れない。これ以上落ちる要素がないということは、あとはなにをやっても留まるか加算されるか、だ。
このチチのデカい女が、後年おれのワイフになるとは往時は当然、夢々思いもしなかった。

駅構内の痴漢事件からさらに数年が経った現在、 馬齢を重ねたワイフのチチは体が肥えた分あの頃よりもデカくなり、あの頃極小だったわたしに対するあらゆるネガティブな態度はそのチチよりもさらにデカく育ってしまったのである。

おはようデブ。
愛しているよブタ。 
今日もチチが揺ぎなく揺れているね。 







村山トカレフ