「俺も異世界にいってみた件」馬野ミキ

2022年02月11日

いざ異世界へ
Planet Earthの現実にはいろいろ疲れ果てていたし
その根本原因は半分自分にあったがもう修正の効かないものも多かった
ユニットバスの汚れた鏡の前で上下の入れ歯を外し
頬の黒子から伸びた白髪をピンとつま弾いて
俺は万年床で胸に静かに手を合わせ
あーめんそーめん冷そうめんと呪文を唱える

Magic!

エキサイティングなHotな 逆にCoolなその魔方陣のなかで
髪の毛をブリーチし、空か草の色に染め
木の葉のダガーと
練馬の鎧を装備し
大気圏を突破し
アストラル界を経由し
みんなのいる世界にDIVEした

そこでは皆がやさしくて或いは格好良くて力自慢であり額に傷があり
天才外科医であり
二刀流でもあったし
マッドサイエンティストでもあった
髪の毛はリーゼントやパンクロッカーより爆発して引力に逆らうこともためらわずまた色づき
全員のおっぱいがすごく大きいかすごく小さく
俺は冒険者の酒場と古びた看板に書かれた冒険者の酒場で
一杯のエールをあおりながら
オーク素材のカウンターの木目調の木目の数を数えていた

周囲のテーブル席ではビキニアーマーの胸の谷間にクエストの報酬を無造作に突っ込んでいる
本当は、手首が傷だらけの少女や
本当は、自室にこもり続けている
片目の伝説のドワーフが
唇の隅に泡をためて
竜のしっぽを踏んだという笑い話や
その冒険譚に華を咲かせていた

俺は横目で彼らをきょろきょろと確認しながら
人差し指でリズムをとった
まだあの頃 俺は恰好つけていたのかも知れない

ホーリーナイト(エンシェントパラディン)である鎌田の親父が鼻血を垂らしながら酒場に帰ってくると
俺以外の連中は一斉に爆笑し
肩を叩きあい
再会を喜び抱擁し
ビキニアーマーが全員に酒をおごり
しょうがねえ奴らだらなまったく と訳ありの親父が微笑み
猫耳のドジっ子ウエイトレスがたくさんの注文を運ぼうとして転んで
すべてがこぼれて、

パンチラがみえて

みんなが笑ったから
彼女は頬を染めて
二頭身になって
ジタバタしてて
俺は席をたつ 
この空間に不似合いだ

「出世払いだ ツケてくれ」

したっけビロードのカーテンの向こうの暗がりから
指の骨をぽきぼき鳴らす奴らが
俺のほうに近づいてきたんだ

やがて俺は屈強なmobキャラに囲まれることになる

誰もが世界で一つだけの花であるのなら俺だってそうだろう
空想の鞘から 木の葉のダガーを抜く
バトルアクスを振り下ろそうとするモヒカンのmob A
バスターソードを身構えたモンカンのmob B
錆びついたモーニングスターを振るうモヒカンのmob Cを
俺は0.1秒で木の葉のダガーで切り刻んだ

いまにもほどけそうな
崩れそうな
土に還りそうな、ほろほろの木の葉も
角度によっては
刺し方によっては
とても鋭利なものなりうる
という証明でもあるし
っていま説明してたら

クロスボウを構えた「冒険者の酒場」の親父みつけて
その瞳孔を木の葉の角でつぶす
悲鳴をあげるきみ
きみの守りたかった秩序

長老キャラは何もかもわかった口で無力だから嫌いなんだよ

いわんや全員がその場で小便をもらして
おしっこ じょーって床にもらしている
漫画かよw

おむつさえない 
異世界だから
すべての毛穴は解放されている
異世界だから
金のペガサスと銅のユニコーンは解放されている
異世界だから

俺はこの酒場をでて、もう一度、このせかいを旅してみようと思ったんだ。








馬野ミキ