「太陽、入滅、墓守」恭仁涼子

2022年03月08日

どうしてあたし独り置いていったの
だってそうでなきゃ、墓守がいなくなるからね
入道雲から亡き声が降ってくる
分家の人間は、仏教徒をやめたのだから
そしておれは人間をやめたのだから

どうしてもあたしに人間をやめさせてくれなかった父は
入滅の日をせめて人らしくむかえただろうか
梁に垂れ下がった腐敗した肉の
うわべに浮かんでいるのは笑顔だった。

父の後に祖母が死んだ
でも、仏教徒は祖母が最後だったから
墓には戒名が刻まれず、俗世の名前だけがのこっていた。

もうこの墓を守るのはあたししかいない。
百円ライターで親指を炙りながら父を思う。
父の葬式中、祖母は晴れ晴れした顔で言った。
よかった。死んでくれて。
あたしはただ草を祈りごとむしり取りながら、毎年恒例の遅すぎる願い。

どうか、誰の悪意も素通りして、自由にいきてください。







詩集「アクアリウムの驕り」より

恭仁涼子