「星のなり手」中川ヒロシ

2021年12月25日

三角点にいたずらして帰った夜に
銀紙で作られた招待状が届く
「日時は急に」
「所はそこで」
と書いてあった

間もなく大勢で詰めかけてきては
「議題は何か?」と僕に聞くので
僕はすっかり困り果てて
黙って夜空を見上げた

ところがみんなは頷き
「確かにそうだ」とため息
「近頃 星のなり手が減った」
「事態はずいぶん深刻そうだ」

天文学者に音楽家と登山家が
星のなり手に推薦されたけど
どうしていいかはわからない
黙って夜空を見上げただけ

ところがそのうち誰かが
「実は」と口火を切るなり
輝きながら回りだし
東の空に駆け上がった

その晩から
天文学者は地球を星座に加え
望遠鏡から自分を見つめてる
登山家はヒマラヤの頂上まで
年老いた三日月を訪ねて
音楽家はソラミミを奏でてる

僕らは夜を歩いている
二人で夜を歩いていこう

アシッドを飲んで
効いてくるのを待つ間にこの歌詞を書いた
明日から東京にツアーなのだが
適当にでも歌詞とメロディーを
覚えないといけない
最近 東京の動員が伸びていない

僕はアシッドで
こんなふうにハッピーなサイケデリックを
体験できると思っていた
初めてだったので
一人分を四人で分けた
二時間後に僕の脳が炸裂した

僕は幽体離脱して
車の天井から四人を見ていた
全員死んでいた

山奥まで来ていたが
明るくなるまでに帰らないと
死んでいるのに
警察に捕まると思った

ハンドルを握る手が木になって
木になった僕をバックミラーが見ている

自分が生きているのか
死んでしまったのか
どうしてもわからず
救急車を呼びたいほど
将来が不安だった




中川ヒロシ