「昭和」馬野ミキ

2022年11月12日

「昭和」

昭和の頃にはおじさんの半分は休みの日は上半身裸で過ごし
瓶ビールを飲んでプロ野球を観て
親戚の集まりから飲酒運転で帰り
次の日の昼に事務の女性は尻を撫でられていた
繁華街には目で見てわかる暴力団がたむろしていて
家族はそろってご飯を食べ
テレビは叩けば直り
ファミコンは息を吹きかけると動いた
不良少年はなるべく太いズボンを履いて
不良少女はヨーヨーを持ち
お化け煙突がみえる駄菓子屋ではじめての万引きをおぼえ
誰のものかわからない土地や建物で待ち合わせ根城にし
用水路にはヒルがいて
親に買ってもらったものを無くすことは大事件で
せかいには怖い人たちがたくさんいたから目を忍んだ
どの町にも1人紫色のパーマをかけたおばさんがいて
どの町にも1人変なおじさんがいて
どの町にも1人関わってはいけない3つ上の先輩がいて
本能でその距離感覚を保った
教師は生徒を叩き
生徒はバイクで校舎に乗り込んだ
パンクとメタルが対立した
ボウイはロックかどうか音楽雑誌で論じられ
焚き火は街角で行われた
飼い主のない犬が歩いていた
授業中に教室を歩き続けるクラスメイトがいた
彼は夏休みがあけたら学校に来なくなった
お婆ちゃんはやさしく
クラスに1人あり得ないくらい貧乏な子がいた
あばら家に住んでいた
監視カメラがなかった
ハラスメントもスマートフォンもなかった。 







馬野ミキ