「晴天の詩学4 ―現代詩とは何かー答える シーズン2 魂を呼ぶ力―梅田智江のこと」平居謙

2022年12月25日


梅田智江という詩人がいた。後で知ったのだが金子光晴の弟子筋で、放浪詩人のような生涯を送ったらしい。『SO alone』という詩集は僕の最高のお気に入りの一つである。


梅田とは2度か3度会っただけだが、何だか相性がよかった。相性云々というほどよく知らないのにそう言えるのは、相性がいい証拠だと思う。ずっと年は上だったが、可愛いお姐さんという感じのヒトだった。最初は1994年の終わりころの話だ。東京の朗読会で顔を合わせた。それだけなのになぜ親しくなったかよく分からない。


その後梅田から手紙を貰った。その中には次のような言葉が書かれていた。「ところで以前、上京するというお電話をいただき待っていたのですが、連絡がありませんでした。お会いできるかなアと思っていたので 残念です。」そして「上京なさる予定の前後の日に、立川の駅ビルで平居さんとそっくりの方をお見かけしたのですが。そのヒトは10代と思われる女の子と駅ビルの最上階のフロアでアイスクリームをなめていました。まさか...平居さんじゃ......ないですよネ」


梅田との約束を故意にすっぽかするはずはないから、どっかで行き違いがあったのだろう。仲直りのしるしに、手紙が来た10日後、新宿のロフトプラスワンというところで僕が出演することになっていた朗読会に彼女を招待した。


そこで小さな事件があった。僕の直前に朗読するはずだった園子温が時間になるのに全然姿を見せないのだ。どうしよう?どうします?と関係者たちは慌てていた。出番直前になったころだったろうか。満を持して園が控室に登場したのだった。どーん。扉を蹴り破るように彼は入って来た。


颯爽と控室に登場した割にはべろんべろんに酔っぱらっていて「あ。🦁🐯🦒あなたが●平居さん?うーん初め●😺まし👩▲💲◎★🐘※」と僕に抱きついたきり、眠ってしまった。それで僕が園の出演時間も貰って40~50分くらい朗読することになった。予定の2倍も時間があるので、小上がりで呑気にビールを飲んでいる梅田を引っ張り出して、朗読をお願いした。梅田は『SO alone』の中から「スパゲッティ・ブルース」を読んでくれた。詩集は多分、今日こそは梅田に会えるというので僕が持っていってた、それを手渡したのだったろう。彼女は読むというよりその作品を叫んだ。絶品だった。


梅田が立川で見た僕に似たヒトというのは僕自身だったに違いない。僕は立川に行ったこともなければ女子高生と一緒に舐めたこともない。けれども、会いたいと思ってくれた梅田が僕のタマシイを呼んだ。それくらいのことができる人間を詩人と呼び、そういう人間の書く言葉を詩と称するのだ。僕の手元には今も『SO alone』がある。僕が梅田に呼ばれたように、僕も梅田を呼ぶことができる。