「タッツに会った」北岡俊
会計1250円とレジスターに表示されているのを見てから財布の内情を確認すると1000円札が一枚はとりあえず入っているのだけれど小銭入れの内情は少し異なり12円しか入っていないのを見て思い出した、ここへ来る前、立ち寄った自動販売機でコーヒーが100円で売っているのを見て思わず買ってしまい一気に飲み干し自動販売機の横に備え付けられていたゴミ箱に空となった缶を投げ入れ先に捨てられていた缶と接触し予測していたよりも大きな音が響いたという出来事で、普段の自動販売機であれば税金や運搬などに使用された燃料の費用や人件費諸々などを加算した金額が表示されているので大体が120〜140円程度に対し、100円で缶コーヒーを喉に通過させる事ができるのはとても好条件だと思いすかさず購入したが、自動販売機の設置されている場所は工場の敷地、おそらくは工場の従業員への日頃の労働に対しての少なからずの労いに経営者が税金や諸費用分の加算されていない安価な値段設定にしていたかもしれず、普段から税金をできる限り払いたくない福祉など自分は享受しない全ての不幸を一身に間に受けたいという反骨的である一方で自己中心的な感情が強烈に働いてしまったがため、私は工場の優しい自動販売機でコーヒーを購入してしまいその為に現在若干支払い金額が足らなくなっている、私の背後で次に支払いを待つ男がタマゴサンドイッチとダイエットコーラと焼きそばパンを手に持ち、身長約210センチ体重はおおよそ100キロはあろうガタイだが筋骨の発達や肥満というわけではなく炎症のために腫れているように見え、纏っているTシャツは男の身体と比較して3サイズくらい小さい気がする、Tシャツは膨れ上がった胸部の下できっぱりと終わり袖は肩の辺りでギチギチに引き伸ばされてほとんどTP(タンクトップ)となり生地を形成している繊維が張り詰め、けれども頭はその体格と比較して極めて小さく乳幼児の拳くらいの大きさで、図体が先立って完成し後ほど頭を製作し接着したような素人的な寸法をしており、全体的に不思議な形態をしているそんな男が、金銭があろうと提示された支払金額以下であればこの場では無価値とほぼ同等の意味でしかない金額が挿入されている財布をじっと見ている自分を見ながら背後で苛立っているのを圧迫として感じとり、どうしたものかと店員の顔を見ると店員は自分や背後に並ぶ男ではなく無関係を凝視しながら立ち尽くし、胸元にあるネームプレートには〝タッツ〟という印字がある、自分はこの〝タッツ〟の事を知っている、知っていると言っても互いの顔や生い立ちや私生活を知っているわけではなくほぼ面識はないがこの男は近隣ではちょっとした有名人で絵描きだか詩書きだかをしているが作品はどこかで見たことのあるサブカルチャーと疾患を丸写ししたような作品ばかりで、作品以前に品性を欠いており素行の悪さばかりが目立ち暴力沙汰や周辺人物の悪評などを流布するといった極めて性悪な人間でカウンター越しに見える下半身は何故かパンツや下着などの一切を身につけておらずそれどころか下半身そのものが掻き消えそうな、色味を持たず、逆にどんな場所の色でもあり、どこにも、立つことのできない透明。
そんなこともあり、市役所に長いこと滞納していた住民税の相談(もちろん払いたくないのだが、それ以前に、貧窮している為に払うことができない、とただ断言するだけだ……)に来たが、人の息遣いはおろか影や足音や体臭もなく全てが全自動、受付はタッチ式ディスプレイ付きの筐体から項目を選択、受付番号が受理され、小さな紙が筐体から排出され取得、しばらく待つとその紙に記載された番号がアナウンスされ、窓口へとゆく、窓口にもただタッチ式ディスプレイが一枚だけ設置され、表示された項目をチャート式に選択をしていき正答を一緒に導いていこうよ、というシステムで、人さえいなければ親切不親切もなくクレームも発生せず滞りなく業務は進むだろうという行政各所の判断だろうが、しかし何度項目を選択しても最初の設問へと遡り何時間も問いの堂々巡りを繰り返しいつまでも正答には辿り着かない。
