シリーズ 短小突貫ヘンタイ式連載「現代詩とは何かー答える」(3)
長すぎる蛇に関する断章
過去の記事
「凍った子ども」馬野ミキ
酔っ払った父が
母に暴力を振るっていたことについて
四十五年後に
泣く
当時ぼくは、
感情を乱さなかった
自分の感情をどこかに冷凍保存して、平静さを装っていた
何も起こっていないような顔をしていた
自分が感情を取り乱すことによって
状況が悪化すると判断したのだ
二人がぼくの目のまえでセックスをしていた時も
ぼくは笑顔でいた
ぼくは
無視されているのに
父と母の意見が揃うのは
ミキは賢いということについてで
自分は大人びていた
大人たちの意向を素早くくみ取った
小学校にあがる前に日本地図を暗記し、書けた
そういう時、父も母も笑顔で
せかいが統合された
風邪をひいて
ぼくが熱でいる時
父は
ミキは甘えているだけだと言って
母は
父の暴力を恐れて、ふたりはテレビの映画を観ていた
「イエス, アイムカミング(4)」荒木田慧
人を刺した、とMは言った。
移動中の車内、Mの目の前で仲間が撃たれて死んだ。報復のためにMは犯人をナイフで刺した。その罪で7年だったか服役した。
2021年「抒情詩の惑星」を振り返る対話
「抒情詩の惑星」を訪れてもらっている皆さん、こんにちは。
編集長というか、まあ勝手に作って勝手に就任しているのですが、編集長の馬野ミキです。
立ち上げから四か月、多くの方にお世話になり協力を得て、なんとか続けさせてもらいました ありがとうございます。
四か月ほぼ作品、原稿を羅列してかたちになっているのですが、この年の瀬を機会に一度、振り返りをしてみようかと。
で、自分1人で書き連ねるのもあれなんでお二方、座談会のようなかたちになればと混ざってもらいました。
荒木田慧さんと、古溝真一郎君です。
「無人」道中記 POGE
無人は詩人の白井明大さんに背中を押された数人が人を募って集まった詩や文芸、芸術の同人だ。不思議と、しばらく詩を書いていなかったり、書けなかったり、自らの詩学に行き詰まった人々が多かった。私もその一人で、リハビリとしての詩は書けても、自分の納得いくものは書けていなかった。二つ返事で参加を表明した。
同人を組むぞーとなってから、はて、名前はどうしようとなりウンウン唸っていたら、そのときにFBのグループ名が無人島、であったことと、東日本大震災のことをだぶらせて、「無人はどうだろう」と提案してみた。紆余曲折あり、無人に決定したとき、人がいるのに無人というのは矛盾だけど、その矛盾を引き受けることこそ、震災後の詩を書くことに繋がるだろうと、私は思った。
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「運命」ロバートDEピーコ
広い野原に木が一本生えている。
その木の下には綺麗な石が置いてある。
そこに辿り着いた人は
木に向かいそして石を拾うだろう。
それが運命。
報酬を与えるから木の下の綺麗な石を
拾ってきてくれと言われれば
多くの人は真っ直ぐ木に歩いて行って
綺麗な石を拾うだろう。
それが運命。
生まれたばかりの素直さは
その運命を止める事は中々できないだろう。
自分のやりたい事をやるというのは
運命に従う事だ。
運命とは他でもない自分で決めるもので
自分で決めてきた事だ。
忘れられるものではない。
忘れるようなら君の心には刻まれていない。
他人の運命に命をくれてやる事はない。
運命はそんなに複雑で壮大なものではない。
ただ今の一歩一歩なんだ。
「星のなり手」中川ヒロシ
三角点にいたずらして帰った夜に
銀紙で作られた招待状が届く
「日時は急に」
「所はそこで」
と書いてあった
間もなく大勢で詰めかけてきては
「議題は何か?」と僕に聞くので
僕はすっかり困り果てて
黙って夜空を見上げた
「寺西幹仁さんの詩集を朗読して」香澄 海
2020年10月から一年かけて、寺西幹仁さんの詩集『副題 太陽の花』を、各地のオープンマイクで1~2編ずつ朗読させていただきました。馬野ミキさんから、何故そうしたのか、その辺りのことを書いて欲しいと依頼されて、立ち止まって考えてみることにしました。
2007年10月に寺西さんが亡くなってから、もう14年以上経ちます。一昨年、ふと寺西さんの詩集を読み返していて、「そうか、もう13回忌になるのか」と気づいたこと、一つ一つの詩に強く寺西さんを感じたこと、そんなことが重なって、人前で朗読したいという気持ちになっていきました。
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「サンタさんへ」 稀月真皓
「Ho-ho-ho 今年もよい子にしていたかい? よい子にはプレゼントをあげよう」
「設定かよ」渋澤怜
「人間の生き血を吸い」「痒みを残して去る『蚊』という虫が」「夏にのみ発生する」「なお、血を吸うのはメスのみである」とか。設定かよ、って思う。
「腐日記」クリスマス特集 アレクセイ渡辺
30年前、クリスマスと言えば、田舎の男子校時代の卑猥で幼稚なジョークを思い出す。あの頃、自分も嬉々として、そのジョークを言っていた。セクシャルハラスメントという言葉も知らなかった。そういったことは東京に来て覚えた。
「マルゴ詩」 もり
スマホのカバー
かわいいの買っちゃった
でも 汚れたら嫌だから
カバーのカバーをつけようと思って
もっとかわいいの買っちゃった
でも それも汚れたら嫌だなぁって
だから カバーのカバーのカバーを
つけなくちゃって
もっと もーっと
かわいいの買っちゃった
「breed」ヒラノ
ジャポニズム、フランス、日の出、印象派...
今回は睡蓮等でお馴染みとなった印象派のアイコンとも言えるクロード・モネのお話をしたいので、どうかお付き合いください。
「脚売りのタコ」大島健夫
ここにいたのは、脚売りのタコでした
チャルメラのかわりにタコメラを吹き
タコ壺の家賃を払うため、毎日一本ずつ脚を売っていました
生活が苦しくなった時、家賃の減免を申請しても
ただ却下されるだけでした
売れるものがあるならお売りなさいと言われて
最初は墨を売ったそうです
チャルメラのかわりにタコメラを吹いて
けれど、誰も買ってくれなかったそうです
イカ墨なら買うとも言われたそうです
けれどタコにはタコ墨しかありません
そんな時、誰かが言ったそうです
その脚なら欲しい、その脚なら買ってもいいと
「真夏野」丘野こ鳩
初めに、ダブルベッドを二つ買った
眠るときだけは ほんとうに、一人でなければ
ときどき
二人でいることもかなわないだろう
一回転して腕を放り出さなければ、 届かないところにいるのが
ぴったりの距離の わたしたちだ
みきくんこんばんは 七 すなけちゃん(snake)
ノーザンプトンでの一番大きな思い出は空き巣窃盗事件です。
家が無いのに引っ越ししてきたので一週間のホテル滞在の間になんとか借りれる家を探さないといけません。
不動産屋さんをいくつか訪ねてみましたがなかなか借りれそうな物件がありません。賃貸は通常家具家電の有りと、何もなしの二種類があります。家具家電付きは単身向けなので子供と一緒は借りれないところが多いです。かといって何もなしの賃貸を借りてしまえば家具と家電を揃えるのに大変な出費になってしまいます。
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みきくんこんばんは 六 すなけちゃん(snake)
二〇二二年からさかのぼること、一六年、スコットランドで英語の勉強が終わった私はイングランドへ移りました。スコットランドは国名ではなく国名はイングランドと同じイギリスです。元はスコットランドの王家があった国家でしたが、イングランドの女王にスコットランドの女王が殺されて統治されてしまいました。同じ国ですが小学校にあがる年齢や法律が異なります。
というわけでつまりは前に住んでいたアロアの町からイギリスの中で移動したということです。新しい町はノーザンプトンといい、古い工業地域で工場の多いところです。
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「駐キリン場」(ちゅうきりんじょう) コナン
常備しているレトルトカレーのストックが切れていたので近所のスーパーへ行くと駐輪場にキリンが倒れている。
キリンは動物園にいる動物の中でも相当デカい部類なので実物を見るとかなり驚く。
自転車1台分に収まるはずもなく狭い駐輪場の全体に挟まっているという方が近い。
これではもはや駐輪場ではなく駐キリン場(ちゅうきりんじょう)である。
自転車が見当たらないのでスーパーの開店前から挟まっていたのだろう。
店員は何をしていたのだ。
客である僕が口を出すことではないかもしれない。
でも現に僕の自転車を置く場所がないのだから何とかせねばなるまい。
スーパーに入ってから店員に言おうにもその前に自転車を置く場所がない。
歩道の脇に置くと違法駐輪で撤去されかねない。
警備員はスーパーの出入口の中にいるので声が届かない。
...
「抒情詩の惑星」をご覧になっている皆様、はじめまして。
URAOCBと申します。
東京都内や近郊で、言葉と音を組み合わせたパフォーマンスを行っています。
今回、馬野ミキさんからスポークンワーズ・マガジン「どんと、こい!」とオープンマイク「SPIRIT」について寄稿のお誘いをいただきました。
私がポエトリーリーディングの世界に足を踏み入れたのは2009年になりますが、この2つはこれまでの活動において重要な位置を占めるものであったことは間違いなく、私なりの見地から記録を残しておきたいという気持もあり、少し長くなりますがまとまった文章を書かせていただきます。宜しくお願い申し上げます。
・「どんと、こい!」について
...
「当たり前のうた」松本暁
当たり前のことを言うんだ
メシを食わなきゃ腹が減るし
夜には眠くなるものだ