過去の記事

馬野ミキさんからTASKE論を書いてくれと依頼され、僕は迷った。
TASKEとは長年のつきあいがあり、彼のイベントでDJやピアニスト、怪談家としてしばし参加させてもらっているが、
実際僕は彼の何を知ってるのか。

結局たいしたことは何もわかってないに等しいと今さらながら気づいた。
秀逸な詩人であり、またNHK Eテレ『バリバラ』内で開催される日本一面白い障碍者(しょうがいしゃ)を決める『SHOW-1グランプリ』で二年連続の優勝を果たしたパフォーマーでもある彼の活躍については、
もしかしてこれを読んでいるあなたのほうが詳しいかもしれない。

字数がかなり限られた中、彼との思い出を振り返ってみる。

夕暮れ空の下で遠くから聞こえて来る
スピーカーから鳴り響くおじさんの歌声
「焼〜き芋、石焼〜き芋、お芋〜♪
お芋、お芋、お芋〜♪」秋の味覚
ほくほくとした甘〜い食感と歯触りのように
偶には穏やかに過ごしたい
もっとやわらかくなりたい

うみちゃん
君の優しい合図で
みなたやすく
液体に戻る
だからぼくだけが
肉のまま
浮かんでいるよう
いっそう冷やされていくようで

それってなに?

音の方位を測る
ことができなくなる
玄関の
ベルを鳴らしているのはだれ?
そこにだれが映っているの?

映るのは、ただの枠でしょ。

うみちゃん
さっき言ったね
肝になるのは得点
ポイントカード
みたいな
ものであると
それはつまり
退屈なカウントを刻むこと?

いまはアプリもあるから。

もう一本の軸が
あるから
さわれる一本道を舗装

さなの太ももにはさまれた俺の右腕は感じまくっていた
さなは太ももを上下に動かして俺の右腕を摩擦し続ける
天国にいくような抵抗感

俺は女に一年半触れていなかった
今日チャリで行けるもっとも近くのセクキャバに行った
俺の身体は11月の東京の夜道で冷え切っていた

前払い3980円
1セットの二人目にさなはきた
俺は延長料金を降ろしに最寄りのゆうちょへ向かった
ATMは店の前にあった
延長4980円 指名2000円

一杯頼みなよ
男の見栄だ 1000円
たぶん半分が彼女のギャラになる 500円
さなは常に俺の右腕をそのふとももにはさんで こすり続けた
上下に
或いはもう少し高度な技術で左右にも動かした
さなの脚はその根元に近づけば近づく程熱くなっていた
大量のカイロがしこまれているみたいにだ
中心には太陽がある

触れてはならない

...

目覚めたら雨が降っていた。低血圧のあたしは、起きてすぐには動けない。干した下着が濡れていくのをぼんやり眺めていた。ベビーピンクのブラジャーとパンツは、ガーベラが刺繍されたデザインで、グレーの空によく映えた。
普通なら慌てて取り込むのだろうけど、あたしはこんなふうにのんびりと色の調和を楽しんじゃうタイプだ。
徐々に体に血が巡り、ゆっくりと上半身を起こした。すると、毛布からはみ出た右足の小指のペディキュアが剥げていているのを見つけた。昨日、トオルが執拗に舐めたところだ。
トオルはあたしより二つ年下の三十五歳で、バツイチだ。出会ったのは半年前だった。知り合いの写真家が開いた個展のパーティーで、彼は人の輪から離れ、一枚の写真の前で佇んでいた。そこには足を上げて踊るあたしが写っていた。
...

こないだのあの事件

刺したのは私で
刺されたのは私でした

ニュースを読む私の声
聞きながら夕飯の下ごしらえ
(玉ねぎは抜いてね、と隣に座る私)

ネットで茶化しもしましたし
それを批判もしましたが
まあまあ、と両者いさめるのは私の役目でした
(ほっとけよと私、お前こそほっとけと私)

その後の裁判は大変
なんせ証人は弁護士は6人いる裁判員は私
(もちろん検察官は、書記官だって)

裁判長(私)は高らかに告げる

「無罪!」

傍聴席にひしめく
私たちは一斉にどよめく

そうだ私たち何も悪くないもの

犯人は私です
犯人は私です
犯人は私です

睡るような姿勢のまま水のなかでストロォを咥えて
奥歯で噛んだりしていた
午後
水面が揺らいで
世間がその向こうにあって
けれどこのガラス窓を通れるのは陽のひかりだけ
そして夜の闇だけ

ねえ
きみはこの部屋が好き?

紅いさかなは炭酸水のストロォを噛みすぎて
唇で弄んで
捨てた
きみは小説を書いていた

私がさわるのは
すいぞっかんみたいなMacBook Air
エアー
Air
だって
可笑しいね

この部屋が好きだよ
白い壁紙も好き
窓辺に空の鳥籠を吊るし
ガラスで光は回析する

詩人の馬野ミキさんからメッセージが来て、『詩とは何か』というテーマで文章を書いて欲しいと依頼されるというのは、自分が考えつく中でもベスト5に入るくらい躊躇する避けたい事態だ。でも、書くことにした。理由は多少は無理をしたほうが生きていて楽しいから。あと、自分でも詩とは何か知りたいから。

軽い気持ちで詩の合評会をはじめて、今年で7年目になる。他に言いようもないのでそう呼んでいるけれど、合評会ってほんとうは何をするものなのかよくわかっていない。よくはわからないがとにかく詩の作品があり、人との対話があり、それだけで成り立つこの会の呼び名を「詩について・対話篇」にしたのは、わりとよかったように思う。

「抒情詩の惑星の奇妙な冒険」

睡眠障害なので睡眠導入剤を飲まないと眠れないはずなのに何故か今日は眠れたけど
途中覚醒してしまったので睡眠導入剤を飲んだからまた眠らないといけないはずなのに
ミキ君からのエッセイの依頼を思いだして書き始めた途端に大き目の地震が来たから
食べていたカップラーメンが零れぬよう手に持ったまま本棚のない玄関に避難した

僕の部屋の壁は殆ど本棚に覆われているので地震が来ると本に埋もれて死ぬ気がして怖い
それはもう家庭内図書館というより本棚の惑星と呼ぶ方が適切な危険に満ちた荒野である
抒情詩とはそのような荒野でフロンティアスピリットを抱いた西部劇のガンマンのピストルの銃弾
そこから放たれる硝煙の匂いすなわちそれは死の匂いでもあり詩の匂いでもある言葉の弾丸

...

今年も残りわずかで日に日に寒くなる十一月は嫌な季節です。
私は痩せているので皮の下はすぐに骨ですから冗談抜きで骨が冷えます。
身長は一五八㎝、普段の体重は四〇ちょいなのですが、スコットランドにいた時だけは六十キロ近くまで太りました。

あら いらっしゃい 久しぶりじゃない
変わってないわねぇ
今日はどうしたの?
あー、あの頃のお話が聞きたいの?
まったく誰も今の私には興味ないんだから
いいのよ、昔話は癒しよね
悔しいから
ちょいちょい自慢話もぶっこんでやるわよ

「ポイントカードはいらない」

レジで
ポイントカードの提示を求められ
お作りしますか?
と言うので
俺もポイントカードをすすめてみた
俺に関わった人にポイントを付与し
10ポイントで握手券
20ポイントでチェキとここで一句
30ポイントで無料ライブ券などを配ろうとしたのである
いまは音楽業界などもこれが主流だ
レジの女性が戸惑い
店長を呼んだので店長にも俺のポイントカードをすすめてみた

これも縁である

何度もポイントカードの趣旨を説明してみたが困惑しているようで
挙句の果てには逆ギレで「お客様のポイントはいりません」などというものだから
俺もつい感情的になってしまい

「兎男」

君との予定がなくなって、俺の11月のカレンダーは、1日から30日の枠ではなく、1号室から30号室の独房になった。
30の独房には、ブルーグレーの囚人服を着た30人の俺が鎮座していて、カントリーBシアターに出演している子熊が抱いているような、おなかのあたりを押すと、きゃっきゃ、きゃっきゅと音が出るクマちゃんの玩具を抱いている。そして30体のクマちゃんたちを無秩序にきゃっきゅと鳴らし始めた時、俺の鼓膜はいつもの30倍その存在をアピールする。ただひたすらにエンドレスに続くジ・エンドの中、完全に身体を折り曲げて、つまり始発前のS宿駅のホームでベンチに腰掛けたまま、ブルージーなスムージーをキラキラと垂れ流す時の角度で、つま先を視界に入れたまま自問自答を繰り返す。

君をもっと、笑わせたかった。
...

11月8日 悲劇面した喜劇
雄々しい悲劇を生きたいと思っていたが、奇妙な喜劇を生きていた。
いつか、そのうちというあてどもない貧しい企みが私をドツボにはまらせて、腐らせる。
昔、天才を気取る凡庸な変態だった。中学生だったあの頃、私はヘッセのデミアンに憧れていたけど、そういうキャラでいたいという憧れは、私をリーダー格のいじめっこから、いじめられっこに転落させた。私は他人の人生の導き手になったことはない。導かれたことは何度もあるが、
現代は導き手にあふれているか。