「エンドロール」もり
悔しいことがあった日の夜
公園のベンチで
うつむいてタバコを吸っていると
エンドロールが
とつぜん地面から湧いてきた
比喩ではない
物理的に湧いてきた
エンドロールが流れるっつうことは
何かが終わった、っていうことなんだろう
それが何なのかが
うっすらとわかってしまうことが
しんどかった
いちお おれが主役の人生らしい
だから
おれの名前はいちばん最初に流れた
明朝体の白い文字は
夜の公園でくっきりと目立って
ちょっと恥ずかしい
自分の名前がのぼって
夜空へと溶けていくさまを
見つめた
見つめるしかなかった
街でときどき
地面にへばりついて
何かを必死に抑え込もうとしている人を
見かけるけど
ああ、そういうことだったのか と
合点がいった
おふくろ 親父 妹
家族の名前から
友人 知人
昔 飼っていたペットの名前まで
地面から湧いては 空へと消えてゆく
ん、誰だっけ? と
しばらく考えて
思い出す顔もある
懐かしい
元気かなぁ あいつ
たぶん、だが
この中の 誰かの名前に乗って
天に召されてゆけ
ということなんだろう
それならできれば
近しい人の名前に乗りたかったけど
エンドロールは進んで
幼稚園時代の関係者の順番になっていた
だから
おれは当時 大好きだった
マキ先生の名前に
乗っていくことに
決めた
マキ先生の
片仮名の「マ」に飛び乗って
「マ」の上で 正座をした
そこは いつかの
マキ先生の膝の上みたいに
あったかくて 安心できた
これはこれで
いい最後かもしれない
のぼっていく
街はどんどん小さくなっていく
高所恐怖症のはずなのに
それほど怖くはなかった
きらきら きらきら
東京の夜景はきれいだな
初めてそう感じた
この夜景を隣で見せたい人の顔が浮かぶ
しかし もう降りるには高すぎる
頭上には分厚い雲
あれを抜けたらきっと
神さまと
ご対面だろう
視界が真っ暗になって
雲を
抜けた
おれは
夜の公園のベンチにいた
タバコはすでに燃え尽きていて
隣には 神さまがいた
神さまは
何も言わなかった
というか 目には見えなかった
だから
神さまだと分かった
会釈をして
立ち上がる
心臓を確認したくて
おれは
走り出していた
オープニングテーマを流そう
それはいつも鼓動のことだ