「かれは」 泉 由良

2021年11月02日

かれは


祝福 と おめでとう の違いが
三文字分でも分からなくて
葉の色が変わる季節
落ち葉を靴の下に踏む
街路樹の葉
森林のなかの一樹になりたかったですか?
山のなかで立っていたかったですか?

名前を知らない形の葉が濁った赤に変化する
乾燥した空気で地面に落ちてぱりぱりになった葉を
しゃかりと音を立てて踏みつけ歩く
次のしゃかりの葉まで道を選びながら家へ帰る 

常緑樹の葉を押し葉にする
帰宅したらハトロン紙で挟む
教えて
冬ってこわいですか

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名前って知らないうちに名付けられてしまう
から
この街路樹の名前にはこの樹は関与していない
私は、私の所為じゃないです

根拠みたいで可笑しいとおもう
 否、おかしいと思う
内心は、可笑しいとおもう
何事も笑うしかないです 


ねえ、
ヴィーニョの門のひとつ手前を知っている?
国語ではなく言葉で、
ヸオロンって云ってみてよ、ねえ、
喋ってよ! 

頁の活字ではなく、
あなたの唇に聞きたかった。
あなたの口から聞きたかった。
あなたが、あなたの、
その唇のかたちで知りたかった
その声でこの世の光を見たかった



  ──愛を語るハイネのような
    私の想う彼は詩人なんです 


常緑樹の葉を毟り盗って押し葉にする
百科事典にハトロン紙で挟む

ねえ
きみからの教唆しか慾しくなかった
教えて
何もかも絶え間なく
私は
こわくて堪らない