「なかよし」中川ヒロシ

2023年12月01日

会社を倒産させたおっさんが、静岡駅前に、再起をかけてケチなフリーマーケット会場を設けた。
僕も駆り出されて、アクセサリーを売った。おっさんもセンスのないネクタイを並べていた。
他にも仲間が20人ぐらい、訳ありの奴が、集まった。
近くの廃屋で寝泊まりしたが、電気が来ていないので、夜は真っ暗で、暖房もなく、水風呂だった。季節は4月。 
驚くほど、商売は上手く行って、みんな明るかった。僕はこの場所があれば、もう一生が大丈夫と有頂天で、皮算用した。
みんな再起のために、この場所を大切に思っていた。
グループに、一人、黒人の男の子がいた。
彼は売り上げをアフリカの家族に仕送り出来ると喜んだ。一度風呂で見た彼の身体はしなやかそのものだった。僕は彼の身体からアフリカの大地を見た気がした。良い奴だった。
石鹸を借りた気がする。 
そんなある日、フリマ会場に私服警官と、テレビカメラが入って、黒人の男の子は逮捕された。ヒップホップのコピー商品を販売していたからだ。
この事件はワイドショーでも取り上げられた。テレビには僕の背中も映った。
その日から、この場所でフリマは中止になった。それでも、誰も男の子のことを悪く言わなかった。「彼はアフリカだから」と。一ヶ月も使わなかった、このフリマ団体の役所に届けた名前は「なかよし」と言った。 






中川ヒロシ