「向こう側」大島健夫

2022年01月22日

この日の向こう側を

この夜の向こう側を
この森の向こう側を
この線路の向こう側を
この谷の向こう側を

「好きだよ」の向こう側へ
「死ね」の向こう側へ
伸ばした指のその向こう側へ
日記にだけ書いたことの向こう側へ
日記にも書かなかったことの向こう側へ

透けた幽霊の体の向こう側に
若い頃の自分の写真の向こう側に
ドアの向こう側に
国境の向こう側に
雨の向こう側に

そう、この匂いの向こう側は
この坂の向こう側は
この途切れた足跡の向こう側は
この笑顔の向こう側は
このこちら側の向こう側は

あの向こう側から
あの向こう側まで
もしも向こう側が
あの向こう側の
向こう側でなかったなら。