「August」馬野ミキ

2021年11月06日

August

陽の光に反射するサテン生地の
そのショーツの
おまたの部分に バターをぬって
少し 唾を吐いて 
血をなすって
夏の太陽に干したら
とてもいい匂いになって とても高く売れる
私は ここで 「とても」 を二回繰り返す

だれかが札束を刷って 配布しているよ
みんな片ちんばのビーサン履いて
チンピラみたいなアロハなシャツ着て 
ラジオアンテナを伸ばしてお出かけ
本日、この人生が終わっても良いみたいに

甲子園のアルプスへオープンカーで
どしゃぶりの中州へスーパーカブで
パリ-テキサスへ押入れの中で
もしくは、あらゆるものが点滅するすごくいやらしいホテル
ミシュランに絶対に掲載されない最高の浜辺
森の中に忘れられた古い戦車のなか
August
右か左に ねじ廻すように
地軸も回転して
わたしの乳首も 
パイナップルがプリントされた
その シャツの上からよじれた

アンテナは放送局をキャッチできない
生きていれば誰だってつらいことがある たぶん・・・
だけれどこの季節には
少しだけ 
ほんの少し 
地の重力から自由になれて
わたしはここで 「すこし」 を二度繰り返す

誰かがどこかで十字架に 磔にされている 
誰だってなみだを流した後に なみだを流さなくなって とてもつらいことがあった後に お腹が減って フランチャイズのお店にいきたくなる

エンジンをかけて
きみのサイドカーに乗って
重心と、
この
地球の丸さを感じる
つぎの赤の信号で
しゃかいのなかで生きるということを知った
その街路樹の
葉が揺れることで
南の風があることを知った
August きみと

きっとわたしは うまくやってのけた
100円のショーツを三十倍の値段で売った 
わたしは経済を回したのかも知れない
私は悪人だろう
だけれど このうそのなかには
たくさんの ほとんどの本当があった
本当は ほとんどの ほとんどのものが ちりばめられていた
わたしはここで「ほとんど」を 二度繰り返す

ボクは言葉だけで天空にタッチしてみせた
或いは連れて行ってもらった
認めてはいけないことを きみは認めた
きみとのあいだに起きたことは
他の誰にも説明できないだろう
私は見てはいけない世界をみた
きみにもみせただろう
August 
この八月に。










馬野ミキ