【企画】誌上短歌ワークショップ3完 秋月祐一×馬野ミキ

2022年07月22日

この企画は、LINEによる短歌ワークショップ/対話を時系列のままちょこっと読み易く編集したものです。


2022.06.21 火曜日
08:32 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

君かへす朝の敷石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ/北原白秋

後朝(きぬぎぬ)の歌です。
一夜をともにして、早朝に帰ってゆく女性を見送る場面です。
(ちなみに、この女性は人妻)

三句目の「さくさくと」というオノマトペが、敷石を踏んであるく音と、林檎を食べる音の両方にかかっていて、自然に上下をつないでいます。
08:33 馬野ミキ おはようございます。
08:35 馬野ミキ ちなみに、短歌などは この「解説」がつきものなのでしょうか?というのは本文中からは人妻だとわかりませんよね。
08:40 秋月祐一 当時はまだ姦通罪があった時代で、白秋はこの人妻との恋愛で、獄中につながれたという歴史的事実があるんですよ。
でも、人妻の部分は忘れて読んだとしても、かぎりなく美しい歌だと思います。
08:43 馬野ミキ 朝に返すから、ちょっと危うい関係であることはわかるのか、なるほど。




2022.06.22 水曜日
11:07 秋月祐一
〈今日の一首〉

フロアまで桃のかおりが浸しゆく世界は小さな病室だろう/加藤治郎

四句目「世界は小さな」が8音で字余りですが、定型感にはさほど影響はないような気がします。
13:25 馬野ミキ 林檎、桃と果物の匂いですね
13:54 秋月祐一 この二首が並んだのは偶然でしたが、明日の歌は意識して、果物の歌を選ぼうと思います。
15:32 馬野ミキ 自分の日常生活のなかでは、果物の匂い、というものを感じる余裕はないといえます。そういう意味で新鮮です。




2022.06.23 木曜日
12:02 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

つきの光に花梨が青く垂れてゐる。ずるいなあ先に時が満ちてて/岡井隆

花梨(かりん)

初句が「つきの光に」と7音です。四句目「ずるいなあ先に」は8音の字余り。この口語体は岡井隆の得意技です。
12:04 馬野ミキ 初句7音とは、大胆ですね
12:06 秋月祐一 ぼくの最初の師匠だった、塚本邦雄という歌人が多用して、短歌界に定着させた第二の定型です。明日は、塚本邦雄の歌をご紹介する予定です。
12:12 馬野ミキ 57577以外にも定型があるのかあ。。
12:34 秋月祐一 初句七音は、ぼくが塚本の弟子だったから、第二の定型と言いましたが、多くの歌人は、この形式を使いながらも「破調」と言うと思います。すこし説明不足でした。
12:37 馬野ミキ 破調、調べますね




2022.06.24 金曜日
10:40 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも/塚本邦雄

昨日に続いて初句七音の歌です。それだけではなく、

日本脱出/したし 皇帝/ペンギンも/皇帝ペンギン/飼育係りも

意味上の切れと定型の切れが、意図的にずらされ、一首に緊張感をもたらしています。
歌意については諸説あります。まずは、ご自分で考えてみてください。

11:10 馬野ミキ おはようございます。
11:11 馬野ミキ 唱えたくなる おもしろい1首ですね
11:12 馬野ミキ 日本脱出したし で、ひとます空白が空いていますね
11:14 馬野ミキ クーラーのCMでも使えそうなくらいポップです
11:16 秋月祐一 昭和33年(1958)刊行の歌集『日本人霊歌』に収録された歌です。
12:56 秋月祐一 空白は「一字空け」と呼びます
12:58 秋月祐一 一字空けは、そこで歌意が切れていることを意味しています。

この歌には、皇帝ペンギンが「天皇」で、皇帝ペンギン飼育係は「国民」である、という解釈もあります。




2022.06.25 土曜日
09:38 馬野ミキ 破調してでも 自由詩にはいかず あくまで短歌の枠に とどまろうとする ということは どういうことなのですかね?
10:04 秋月祐一 いい質問です。

奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆわれのみが累々と子をもてりけり/葛原妙子

たとえば、この歌などは、6・7・5・10・7と、初句が6音、4句目が10音ですが、短歌として認識されます。
それは、他の句が7・5・7と定型を守っているからです。
10:13 秋月祐一 理論的には、短歌の各句は8音まで許容されると言われています。ただし、3句目の5音と、結句の7音が崩れると、急に短歌らしさが失われます。

19:05 馬野ミキ ぼくの進展状況の報告としては、コピーのようなものや一行詩は日々うまれてきますが、現状 五七五 だけでもかなり 意識して作ろうとないと 作れないという感じです。
19:12 秋月祐一 短歌は、意外と長いんですよね。五七五までできたら、すこしちがう角度から、七七を付けてみるとか? 気長にお待ちしております。





2022.06.24 日曜日
〈今日の短歌〉
今日は二首セットでご紹介させていただきます。

童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり/春日井建

掌のなかへ降る精液の迅きかなアレキサンドリア種の曙に/岡井隆

これらは少年の自慰を詠ったものです。短歌は何を題材にしてもよい、ということがお分かりいただけるかと思います。




2022.06.27 月曜日
11:14 馬野ミキ ありがとうございます。自然に出来上がってくるのは時間がかかりすぎそうなので、意識して多少作為的に作ってみようかと思います。それから、句またがりが面白いのでこれを使ってみようかと。
11:15 馬野ミキ 三句目と結句についても、なるべく守って作ってみようと思います。
11:21 馬野ミキ 1首のなかの、他の語との組み合わせによって、ただの下品な話に終わらないということですね。自分もいま自分が置かれている身を置いている状況について、書いてみたいと思います。
11:29 秋月祐一 そうですね。とりあえず書いてみて、それを推敲してゆくのがよいと思います。造花の桜の歌も、完成させてみませんか?
11:35 馬野ミキ 造花の桜、都落ちシリーズを続けてみるか、さらに今の心情を掘り下げてみるか迷っています。
11:38 馬野ミキ 新宿の思い出横丁に定期的にいくのですが、そこで一人飲みをしているとなぜか、飲みながら575で言葉を作っていく 一人遊びをしている自分がいるのですよ。
11:58 秋月祐一 飲みながらの作歌いいですねえ。575のほうが作りやすければ、それを送ってくださっても構いませんよ。俳句にしたほうがいいのか、短歌にしたほうがいいのか、一緒に考えましょう。
12:00 秋月祐一 思い出横町をぼくも知っていたほうが、よいアドバイスができかもしれないので、気が向いたら、お誘いください。
12:04 馬野ミキ せっかくですので短歌までもっていきたい欲がでてきていますw
12:06 馬野ミキ 月一で寄る予定があり、確実に次に行くのは7/13のお昼過ぎになると思います。
12:17 秋月祐一 じゃあ、短歌でがんばりましょう。
12:17 秋月祐一 7/13のスケジュール、空けておきます。
12:20 馬野ミキ そこまでに核となる部分をまとめて、なるべく仕上げておきます!

22:21 馬野ミキ まだかなり 57577にはなっていませんが 少し リズムを掴んできました
22:22 馬野ミキ 連投したほうがよいか それとも一首を 追求した方がよいか どうでしょうか?
22:26 秋月祐一 どちらでも結構ですが、推敲していくのは一首ずつのほうが、話が錯綜せず、読者の方に分かりやすいと思います。
22:28 馬野ミキ 幾つか思いついてしまったので 一旦書かせてください
22:29 馬野ミキ

ハイエースに乗って今夜プルトニウムを運ぼ月の光に照らされ

横丁でいただく麒麟ビールの麒麟幻想の生き物である僕も造花の桜も

前世できみは大工であったねと有名な空のした壊れたがる理性

ねえきみのLINEのスタンプはいつもそれだね次の言葉が言えない

22:31 馬野ミキ かなりまだ 字数はそろっていませんが・・
22:34 秋月祐一 ありがとうございます。
四首おあずかりいたしました。
22:37 馬野ミキ 御願いします。
23:02 秋月祐一

原作1
ハイエースに乗って今夜プルトニウムを運ぼ月の光に照らされ

改案1
ハイエースでプルトニウムを運ぼうか月の光に照らされ今夜

改案2
月の光に照らされ今夜ハイエースでプルトニウムを運ぶぼくらは

「プルトニウムを」を二句と四句の七音のところに持っていき、全体の韻律を整えてみました。いかがでしょうか?
改案1と改案2では、上の句下の句を入れ替えています。
23:08 馬野ミキ 一旦寝てまた読ませてください!
23:09 秋月祐一 はーい。おつかれさまです。
おやすみなさい。

23:16 秋月祐一 原作2
横丁でいただく麒麟ビールの麒麟幻想の生き物である僕も造花の桜も

改案1
麒麟ビールの麒麟もぼくも幻想の生き物である そんなまひるま

短歌定型に収めるには要素が多かったので、こんな風にしてみました。
思い出横町と造花の桜は、作りかけの歌のほうで出せればいいかな、と。

23:24 秋月祐一 原作3
前世できみは大工であったねと有名な空のした壊れたがる理性

すみません。これは歌意、もしくは作歌の意図をご説明いただけないでしょうか?

23:25 馬野ミキ 酔っ払ってわけわかんなくなってる状態でもなお 生き残っている理性といいましょうか
23:26 馬野ミキ また、その自分の理性に対する 憤りとでもいいますか。。
23:26 秋月祐一 なるほど。「有名な空」はどんな感じですか?
23:30 馬野ミキ 本来、空に有名も無名もありませんので、そういった 当たり前の当たり前すぎる 世界、現実とでもいいましょうか。。
23:35 秋月祐一 わかりました。短歌一首にまとめるには複雑な内容なので、二首にさせていただくかもしれません。やってみないと分かりませんが。
23:40 馬野ミキ ありがとうございます。


2022.06.28 火曜日

00:04 秋月祐一 原作3
前世できみは大工であったねと有名な空のした壊れたがる理性

改案1
たぶん前世できみは大工であったねと言ってるおれは何者なんだ

改案2
有名な空のしたでは壊れたがる理性、それより「ビールお代わり」

酔っぱらいの言葉としては、整理がつきすぎかもしれません。原作がいちばん迫力があるような気もします。

00:06 秋月祐一 原作4
ねえきみのLINEのスタンプはいつもそれだね次の言葉が言えない

改案1
ねえきみのLINEスタンプはいつもそれ 次の言葉が言いだせないよ

これは定型に言葉をそろえただけです。
00:07 馬野ミキ 祐一さんが以前言われたように ある種の 連作 で発表する というのが 自分にも読み手にも優しいかもしれません。
00:07 馬野ミキ 改案ありがとうございます。
00:08 秋月祐一 たぶん、そのほうがミキさんには向いてるような気がします。
00:09 馬野ミキ しかし いかに みじかく 言葉を絞っていくのか というのは おもしろい作業です
00:10 馬野ミキ なぜ五なのか 何故七なのか ということを 肉体、細胞レベルで理解していないので まだかなり乱してしまいます
00:11 秋月祐一 明日、ぼくの改案を叩き台にして、さらにミキさんの言葉にしてみてください。
00:13 馬野ミキ 挑戦させてください

09:20 馬野ミキ おはようございます
09:21 秋月祐一 おはようございます。

09:21 馬野ミキ 4推敲ver
ねえきみのLINEスタンプはいつもそれ 次の言葉がうまく言えない

09:22 秋月祐一 いいと思います。

09:23 馬野ミキ 1推敲ver
月の光に照らされ今夜ハイエースでプルトニウムを運ぼうよ僕ら

09:24 馬野ミキ ありがとうございます。
09:27 秋月祐一 1の推敲、いいと思います

09:28 馬野ミキ 2推敲ver
麒麟ビールの麒麟もぼくも造花の桜もゆめうつつ そんなまひるま

09:39 馬野ミキ 3は保留にさせてくださいー
09:40 秋月祐一 2の推敲、三句目「造花の桜も」5音のところが8音は重たいですね。
09:41 秋月祐一 3の保留、了解です。
09:42 馬野ミキ 思案します!
09:50 秋月祐一 2の三句目、麒麟ビールの麒麟もぼくもこの桜花(はな)も
とルビをふるのは、どうでしょうか?
09:50 馬野ミキ おお そういう技もあるのですね
09:52 秋月祐一 ルビの使用はここぞという時に限りたいですけどね。
09:53 秋月祐一 それか、単純に「花」と言っても、短歌・俳句では「桜」を指します。
09:54 馬野ミキ 季節によってさまざまな造花があしらわれるのですよ

09:55 馬野ミキ 画像UP
09:55 秋月祐一 なるほど、じゃあ、桜と言ったほうがいいですね。
10:01 馬野ミキ

麒麟ビールの麒麟もぼくも偽の桜もゆめうつつ そんなまひるま 
     

・・・一文字減らせました。。
10:08 秋月祐一 麒麟ビールの/麒麟もぼくも/偽の桜も/ゆめうつつ/そんなまひるま

四句目が字足らずだから、3句目の7音も許容できなくはないですね。

あるいは、

麒麟ビールの/麒麟もぼくも/偽の桜(さく/ら)もゆめうつつ/そんなまひるま

という上の句から下の句への句またがりと読むことも可能です。
10:10 馬野ミキ ありがとうございます。なんらかのリズムを掴みつつあると思います!
10:12 秋月祐一 それはよかったです。

10:08の補足ですが、後者はかなりアクロバティックな韻律なので、多くの歌人は、上の区切りで、破調の歌として読む歌人が多いと思われます。

15:04 馬野ミキ 祐一さんの言われた通り、「歌」ということをまず念頭に置いてみようと思い、そこから始めてみようと思いました。読まれ方については、そこまで自分がまだ力を注げず、想像だにしないところです。
15:10 秋月祐一 そうです、短歌は声に出して読まれる「歌」なのです。初めのうちは、五七五七七(または七七五七七)の定型に言葉をおさめるのが常道だと思います。





2022.06.29 水曜日

〈今日の一首〉


まだ恋ぢやない左手にカナリアのゐる感触を教へてくれた/荻原裕幸

ぼくの偏愛する歌です。

「まだ恋ぢやない左手」ということは、右手はすでに恋しちゃってるんでしょうね。で、その女性はカナリアを飼っている人で、作者(作中主体)がかろうじて理性を保っていた左手に「カナリアの(留まって)ゐる感触を教」えてくれた。これはもう完全に恋に落ちてしまっただろう、と推測します。技巧的には、

まだ恋ぢや/ない左手に/カナリアの/ゐる感触を/教へてくれた

まだ恋ぢや/ない、と、カナリアの/ゐる感触、の二箇所で句またがりをしていますが、韻律はとてもなめらかです。今日は短歌の鑑賞の一例もお見せしました。歌会の際の参考にしてください。では、もういったん寝ます。

11:20 馬野ミキ おはようございます。うーむ、読み解く力がぼくは低いかもしれません。
11:53 馬野ミキ というのは、解説がないと書き手の意図をぼくが理解できないからです。
12:09 秋月祐一 読みの力は、歌会に参加し、みんなの意見を聞くことで、養われてゆきます。荻原さんの歌も、ぼくはこう読んだけど、他の人はちがう読みをするかもしれません。そのどちらの読みに自分は共感するか。まずはそんなところから始めていけばよい、と思います。
12:12 秋月祐一 本を読んで勉強するなら、横山未来子さんの『のんびり読んで、すんなり身につく、いちばんやさしい短歌』(日本文芸社)がおすすめです。多くの歌が紹介されていて、そのすべてにわかりやすい解説がついています。
13:04 秋月祐一 ふたたび荻原さんの歌について。読みのとっかかりとしては、「まだ恋ぢやない左手」ってどういうことだろう? 「カナリアのゐる感触」ってどんな感じだろう? というところから始めていけばよいと思います。批評なんて大げさなものではなく、まずは感想から。
13:05 秋月祐一 あと、歌会は作者の意図を当てるゲームではありません。多くの人の意見を作者が聞いて、学んでいく場所です。楽な気持ちでご参加ください。



2022.07.01 金曜日
11:44 馬野ミキ 「聞く」ということは、自分の人生にとっても大事なことかも知れません。
11:45 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。/穂村弘

作者(作中主体)の絶対的な孤独感が伝わってきます。夜、静かな霜柱ときて、最後のカップヌードルの海老たちが、とてもよく効いていると思います。
この歌が収録された『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』は、小学館文庫で読めますので、おすすめです。
11:48 馬野ミキ ばっと見では、短歌とはわからないかもです。自分だと。
12:19 秋月祐一 ひじょうに独創的な形式の歌ですからね。でも、下の句「ハローカップヌードルの海老たち」が句またがりで15音である以外は、短歌定型で書かれています。
16:06 馬野ミキ 祐一さんー。疑問なんですが、このくらい独創的であっても、それでも短い自由詩や一行詩を書くということではなく、「短歌」という表現技法、概念、アプローチにこだわるということは、どういうことなのでしょう?
16:15 秋月祐一 それは、五七五七七という定型への信頼性みたいなものだと思います。たとえば、千年以上前の万葉集の歌が現代まで伝わっているように、多くの歌人は自分の歌を千年先まで遺したい、とまじめに考えています。
16:20 馬野ミキ 信頼性。。
16:25 秋月祐一 五七五七七七の仏足石歌体や、五七七五七七の旋頭歌など、さまざまな詩型があったなかで、いちばん長く続いているのが、五七五七七の短歌なのです。先に紹介した塚本邦雄は、短歌定型を「黄金律」と呼んでいます。



2022.07.02 土曜日
11:35 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり/寺山修司

この歌は、情景がすんなり浮かぶのではないでしょうか。
11:45 馬野ミキ おはようございますー!寺山修司は十代後半、結構読んでいました。
11:45 馬野ミキ 少女に海の大きさを説明しているのかな。。
11:46 秋月祐一 そうだと思います。
11:46 馬野ミキ でもこれがいい歌なのかどうかはわかりません。。
11:47 馬野ミキ 少女との関係性がみえないからかなあ
11:48 秋月祐一 とても人口に膾炙した名歌だと思います。
11:50 秋月祐一 「麦藁帽のわれ」とあるから、少年時代の回想なのだと思われます。少女との関係性は、読者が自由に想像して、いいんですよ。
11:51 馬野ミキ 勝手におじさんだと思ってました
11:52 馬野ミキ 書き手が少年である場合、対象を 「少女」と表現するかなあ?と思ったのもあります。
11:53 秋月祐一 たとえば、少女との関係性を入れた改悪版

海を知らぬ女友だちの前でわれは両手を広げていたり

11:54 馬野ミキ こっちのが好きかな。。
11:54 馬野ミキ ぐっと距離感が、縮まって読める感じです
11:55 秋月祐一 いやいや、短歌としては、原作のほうが断然優れています。
11:55 馬野ミキ 海を知ってるぞぼくは!という自慢してるような少年のかわいさとか。
11:56 秋月祐一 それは、原作にも十分出ていると思うのですが?
11:57 馬野ミキ 原作だと少女と所在のない麦わらぼうのおじさんと、読んでしまいますねえぼくは
11:58 秋月祐一 「少女」「麦藁帽」という言葉を出していることで、作中主体は「少年」だと推測できると思うんだけどな。
11:59 馬野ミキ そこはぼくは「少年」に、いきつきませんでした。時代背景もあるのかな。
12:00 馬野ミキ いま、麦わら帽子をかぶっている少年をあまり見かけないからかも、しれません。
12:01 秋月祐一 ああ、なるほど。ぼくの世代だと、「麦藁帽」は少年を表す記号のように感じられます。
12:03 馬野ミキ 農家の人、或いはちょっとはずれた旅行者が麦わら帽子が、似合います。ちょっとはずれた旅行者が、田舎の少女に海を説明している、というふうにぼくは読んだのだと、思います。
12:05 秋月祐一 もちろん、そういう風にも読めます。それと少年少女と読んだ場合の、どちらが魅力的な読みであるか、と考えてみてください。
12:06 馬野ミキ 例えば、海の町から転校してきたというようなことがわかると、少年少女がよいですね
12:07 馬野ミキ ただ短歌の枠には、おさまりきれないかもです
12:09 秋月祐一 そうなんですよ、短歌は一点突破の詩型なんです。いちばん大事なことだけ書いて、あとは読者の想像にゆだねる感じです。
12:10 馬野ミキ 読者の想像にゆだねる、というところをぼくは苦手としているのだろうなあ。。
12:11 馬野ミキ 少女とおじさんでも、組み合わせによれば美しくはなると思いますけど。
12:11 秋月祐一 一首の短歌で伝えられる情報量の感覚をつかんだら、ミキさんは飛躍的に上達すると思います。
12:12 馬野ミキ 情報量の感覚、初めて聞いた言葉です。
12:13 馬野ミキ 確かに、長く説明すれば他者にそれだけ伝わるというものでも、ないかもしれません。日常生活においても。
12:13 秋月祐一 少女とおじさん(あるいは大学生くらいとか)と読んでも、全然まちがいじゃないんですよ。短歌は詩だから、正解不正解というものはないのです。
12:14 馬野ミキ 他力に預けるような感覚ですかね
12:15 馬野ミキ 全部自分の意味通りに理解してくれ、というのはおごがましいとも言えるのかも。。
12:15 秋月祐一 その通りです。短歌が得意とするのは、は一瞬の情景や気持ちの揺れを表現することです。
12:16 馬野ミキ 一瞬かあ、なるほど。意識してみます!
12:18 秋月祐一 短歌は南極の氷みたいなもので、水上に見えてる氷山の一角を書いて、水中の氷の巨きさを想像させる文芸なのです。
12:18 馬野ミキ ううむ。。
12:18 馬野ミキ 氷全体を提示するのではないのですね なるほど。
12:19 秋月祐一 氷全体を提示するには、短歌は短すぎると思います。
12:20 秋月祐一 だから、連作という手法が発達したとも言えますが。
12:20 馬野ミキ しばらく「一瞬」について、意識してみます。
12:21 秋月祐一 とてもよいことだと思います。



2022.07.04 月曜日
13:05 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず/佐佐木幸綱

汝(なれ)二人称、おまえ
食事を共にしている女性への愛情を確信しているような歌です。
「サキサキと」というオノマトペと「セロリ」という野菜のセレクトが印象的です。S音の頭韻が爽やかさを演出しています。
「噛みいてあどけなき汝を愛する」のあ音の母音の頭韻も、明るさを感じさせてくれます。


2022.07.05 火曜日
秋月祐一 〈今日の一首〉

君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ/俵万智

きみと一緒に食べれば、三百円の穴子寿司でもおいしい。このおいしさは恋のなせる技である、という歌です。
きみと食べるではなく「食む」。「恋とこそ知れ」という係結びの法則など、要所要所に文語を用いて、短歌っぽさを出しています。
三百円のあなごずし、というチープなアイテムを最大限活かした歌と言えるでしょう。

16:43 馬野ミキ 寺山修司の歌のアンケート参加しました 「大人」も一定数いますねえ。
16:48 秋月祐一 短歌の世界には、作中主体=作者と思う人が少なからずいて、そういう人が「大人」を選ぶのかな、と思います。でも、ミキさん、この結果を見て、まず思うべきは「少年」「青年」の多さでしょう(笑)




2022.07.06 水曜日
12:22 秋月祐一 おはようございます。
〈今日の一首〉

転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー/東直子

送った手紙が転居先不明で帰ってきたんでしょうね。春原さんは、どんな気持ちでリコーダーを吹いていたのかな?

この短歌を原作に『春原さんのうた』という映画が製作されました(監督:杉田協士)

14:05 馬野ミキ 祐一さん、こんにちは!ううむ、自分にはある種の読解力、想像力がないのかと思ってしまいます。なぜなら解説がないと分からないからですねえ。
14:07 馬野ミキ しかし自由詩というよりもっと短い文で表そうとする意識はだいぶ身体に入ってきています。
14:16 馬野ミキ 第三回更新をまとめつつ、7/13の思い出横丁の飲みに向いたいのですが、首の脊椎をどうもやられたようでここのところ集中力がなくすみません!
14:38 秋月祐一 だいじょうぶ、短歌は逃げません。首はくれぐれもお大事に。
15:49 秋月祐一 読解力について。
これは穂村弘さんの言葉ですが、短歌は五七五七七の定型に収めるために、言葉にパソコン用語でいうところの「圧縮」がかかっています。
なので、読者にはそれを「解凍」して読む技術が求められます。つまり、短歌に書かれていない部分は、読者の想像力で補う必要があるということです。
読解力を鍛えるには、歌会に参加するのが、いちばんの近道です。自分で他人の歌の読みを発表するとともに、他の参加者の読みも聴くことができるからです。
ぼくの解説も、短歌を25年やってきて身につけたものなので、そんなに焦る必要はありません。ゆっくりと続けていきましょう!




2022.07.07 木曜日
13:51 馬野ミキ おはようございます。
自由詩でも歌詞でも、「圧縮」はかかっているのですが、自分が書く場合出来るかぎり圧縮がかかたった状態でも、読み手が理解できる状態にしたいという考えはありますー。
14:54 秋月祐一 こんにちは。短歌はとにかく短いので、作者のいちばん伝えたいこと、一点突破の詩型なんですよ。一首でなにかを物語ろうとすると、散文的で説明的になってしまいます。そこで短歌は読者に「物語を感じさせる」ように作られた韻文、という戦略をとるわけです。短歌は、読者のいい読みを得て、はじめて作品になる、とも言われたりします。
14:59 秋月祐一 ということで〈今日の一首〉

もちあげたりもどされたりするふとももがみえる
せんぷうき
強でまわってる
/今橋愛

3行書きの歌です。
この歌はどういう状況だか、お分かりになりますか?
15:38 馬野ミキ クーラーのような冷房がない、暑い 優雅ではない状況ですね もう少し考えます
15:45 馬野ミキ ふとももだけが見えるというのは、覗き見をしているからかも知れません 真夏に、たぶん木造のアパートで、親の性交を覗き見している少年(少女)の歌ではないでしょうか?
16:07 秋月祐一 読みを披露してくださり、ありがとうございます。
ぼくが想像したのは、向かいのアパートでやっているカップルがいて、持ち上げられたときの女性のふとももだけが、窓から見えている、という状況です。せんぷうきは、あちらの部屋にあるのか、こちらの部屋にあるのか、はっきりしませんが、ミキさんのご想像と同じく、冷房のない蒸し暑さのなか、強でまわっている。この強でまわっているせんぷうきは、性交のメタファーとして機能しているような気がします。
17:26 秋月祐一 補足ですが、ミキさんの読み、ぼくの読み、どちらが正解というわけではありません。
歌会というのは、それぞれ違った人生経験をもった人たちが、それぞれの読みを発表しながら、その歌がいちばん魅力的に見える解釈を、みんなで探っていく場なのです。




2022.07.08 木曜日
〈今日の一首〉

したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ/岡崎裕美子

昨日に続いて、性愛の歌です。
「したあとの」は、セックスしたあとの、と読むしかないと思います。そのけだるさと、「自転車に撤去予告の赤紙は揺れ」の赤色が、うまく響きあっています。




2022.07.09 土曜日
13:10 秋月祐一 こんにちは。
〈今日の一首〉
今日は二首セットで。

たとへば君ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか/河野裕子

あの胸が岬のように遠かった。畜生! いつまでおれの少年
/永田和宏


昭和の時代の、若き恋人たち(のちに夫婦となりました)の相聞歌(そうもんか・恋の歌)です。最近、NHKでドラマ化されました。

女性のほうが大胆であるのに対し、男性のほうが少年のようなウブさを抱えているのが、特徴的です。

テクニックとしては、「ガサッと落ち葉すくふやうに」「あの胸が岬のように遠かった」と、ともに直喩(〜のように)を使っています。どちらも一読して忘れがたい、印象的なフレーズだと思います。
13:40 馬野ミキ こんにちは!2首セットでより味わい深くなりますね。

18:25 馬野ミキ

ひょうげんを作らなくなりもう僕は君笑わせてばかりの月日

18:27 馬野ミキ この数日練っていたものです 字数を合わせてみました!
21:00 秋月祐一 新作、ありがとうございます!

ぼくやミキさんは、表現にとりつかれた、ある意味、業(ごう)を抱えた人間かもしれませんが、ふつうに暮らしている人は、なにかを書いたりしなくても、家族や周囲の人たちとのコミュニケーションのなかで、自然に表現しているのではないか、と思ったりもしました。
さて、歌の表現を細かく見ていきましょう。上の句はこのままでOKだと思います。「ひょうげんを作らなくなり」のひらがな表記の「ひょうげん」からは、自分の表現に懐疑的になっている感じが伝わってきます。
問題は下の句です。字数合わせのために「君笑わせて」が、ちょっときゅうくつな感じになっています。
これを「君を笑わせて」と助詞を補うと8音になりますが、さて、どうしましょう?
ここで「句またがり」という技をご紹介したいと思います。

「君を笑わせ/てばかりの日々」

どうでしょう。音楽でいえば、シンコペーションのようなリズムが感じられませんか? それでいて、音数は七七に収まっています。

この改作案を読まれて、どのようにお感じになられたかが、知りたいです。ご返信をお待ちしております。

21:48 馬野ミキ

ひょうげんを
作らなくなり
もうぼくは
きみを笑わせて
ばかりいる晩年

21:49 馬野ミキ もともとはこうで、これを、57577にあわせましたので、窮屈になった感はあると思います!
22:03 秋月祐一 元歌の下の九は、ちょっと重たすぎると思います。「晩年」を「日々」に変えると、ミキさんが表現したいものとズレてしまいますか? 四句の「君を笑わせて」は定型の許容範囲と感じられます。
22:06 馬野ミキ 「日々」であると、意味として軽いのかなと
「晩年」 がふさわしいとともいますが、字数が多いかなと、折衷案で「月日」としました

22:09 秋月祐一 なるほど。結句を七音にすると、短歌らしさがグッと上がるんですけどね。あと、短歌は一瞬の感情の揺れを表すのに向いている詩型なので、「月日」よりは「日々」をおすすめしたい感はあります。
22:15 馬野ミキ なんとか説明しようとする意識が強く、一瞬 を、とらえていないのかとしれません
22:19 馬野ミキ 説明したい、分かってもらいたい というのは 自分の 我 がもしれません。
22:20 秋月祐一 「〜だから〜」みたいな説明せずに、読者がそれを感じてくれるように作るところに、短歌のヒケツがあります。
表現を小さく手触りのあるものにすることによって、より多くの読者に届くようになるところに、短歌の不思議さがあります。
22:25 秋月祐一 たとえば、上の句に「でんぐり返しで君に近づく」とか、小さな具体を入れるのも有効な手段です。
22:26 馬野ミキ 禅的なのかもしれないですね 
22:33 秋月祐一 そうですね。上の句の描写が、下の句の思いを受け止める「喩」になっていると、さらにベターです。
ちょっとむつかしいことを言いますが、短歌というのは、一種全体が「喩」になっているんですよ。
だから、限られた字数のなかで、説明よりも、読者に「感じて」もらうことを優先するわけです。





2022.07.10 日曜日
14:06 秋月祐一 こんにちは。
〈今日の一首〉
今日も二首セットで。

きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある/正岡豊

好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ/東直子

似たような着想の歌ですが、後者は前者をふまえて書かれたものなのか、たまたま似たものなのか、よく分かりません。
ミキさんは、どちらの歌がお好みですか?



2022.07.11 月曜日

11:33 馬野ミキ おはようございます。水曜日にお会いして、第三回の原稿もまとめたいと思っております。
11:36 馬野ミキ 二首ともやさしいですね 好きな世界観です
13:46 秋月祐一 承知いたしました。水曜日、楽しみにしております。
13:49 秋月祐一 ミキさんから、はじめて「好き」という言葉がでてきて、ホッとしております。
13:50 馬野ミキ 13時頃には新宿に着けると思います。岐阜屋の下の階にしましょう。仲よくしてくれてる女の子の店員がいます。
13:50 秋月祐一 了解です!
13:51 馬野ミキ あらら、そうですか。意識していませんでした。二首ともやさしいなと。
13:54 秋月祐一 ぼくの短歌の知識が、前衛に偏っているので、紹介する歌もそういう歌が多かったのかな、と。
13:55 馬野ミキ なるほど いろんなかたちがあるよ ということを 教わっているのだと思っていました
13:56 秋月祐一 そう言っていただけると、助かります。
東直子さんの歌をもう一首。

ふたりしてひかりのように泣きました あのやわらかい草の上では/東直子

とくに解説はいらない歌かと思います。じっくりと味わってください。





2022.07.13 水曜日
10:57 秋月祐一 〈今日の一首〉

にぎやかに釜飯の鶏ゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった/加藤治郎

ずらっとならんだ旧仮名遣いの「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑ」が印象的ですね。これは鶏が整列している姿とも、鶏の断末魔の声とも感じられます。
後年、加藤さんは、表記はそれ自体で喩を形成するという「表記的喩」というレトリックの手法を提唱しました。
ぼくも、この考え方に共鳴して、

踏み抜いた夢のうちそと ぼくたちはゐるゐるゐないゐないゐるゐない

死ののちの死しののめのあめののち藍青の空はつかに見えて

*藍青(らんじやう)

といった歌をつくりました。



12:44 馬野ミキ 新宿着です ノート買って参ります!
12:46 秋月祐一 思い出横丁の入口にいます
12:50 馬野ミキ 歌舞伎町の反対側ですか?むかいますね



講師・協力 秋月祐一
生徒・編集 馬野ミキ