セーター(2021) 鐘勢

2021年10月11日

セーター(2021)

ランドとか行きはりますか。Pさんのハニーハントってありますでしょ。あのハニーって奥さまってことですよね。奥さまをハントするマッチングアプリみたいなアトラクションなんすかね。と、いつも行ってるカウンセリングの先生に聞いてみたが先生は、「入場料やランド内の食事代とか考えてみても絶対にマッチングアプリの方がコスパを考えるといいですよ」やて。

俺が言うのもあれやけど考えすぎやろうとか呟きながら家に帰ると玄関部分にアンゴラっぽいセーターの上に手紙が置いてあって、彼女と兎が消えていた。ひろげたアンゴラのセーターを見つめるうちに俺は無性に腹が立った。セーター嫌いなんじゃちくちくするねん。君と並んで歩いていたら
まだ我慢して着てられるけど一人こんなもん着るかいや。ちくちくからくるいらいらを抑えるために
俺は先刻B府氏にもらった合成ウイスキーを軽率にもラッパ飲みしちゃって俺の感情に後悔がトッピングされた。ラッパ飲みという行為は本来有りだろう。しかしそれは信頼できるメーカー品の場合に限るべきだと言えるし、言うし、皆さんにはぜひ覚えておいてほしい。
使い回しのペットボトルに入った合成ウイスキーは俺の体内に俺を掴んだまま流れ落ちた後、螺旋階段を上る速度で肩のあたりまで登りきると、そこからは脳天までエレベーターで急浮上。脳天階の扉が開くと真正面にいたラテン系の姉ちゃんがバンダナを落とした瞬間、合成ウイスキーは一斉に俺の脳みその溝でゴギャギャギャギャギャとドリフト走行。脳内ダウンヒル伝説の幕開けはゴギャゴギャうるさいからいらいらしたら身体がちくちくしてきたんで、あーあ、って、こないだNIK口の駅前のコインロッカーとラーメン屋の隙間に腕が一本くらい入るような戸を興味本位で押してみた時に、見つけた茶色い紙に入った物品でひと暴れすることしたぜ。
俺が暴れる時のファッションコードはこの通りにさせていただく。
黒いスーツに白いドビー地のシャツ。黒タイ。胸ポケットには自分でも少しやりすぎかなとは思うけど、シガーケースを差し込む。仕上げにオーデコロンをラーメン店の湯切りみたいな感じでちゃっちゃっと全身にふりかける。現場に俺の匂いをしっかり残すためだ。
そして、三台目の赤い車とすれ違う瞬間、俺の茶色い袋の中身のBANG!、フロントガラスの割れるガッシャン、人間の壊れるぱちゃん、てサウンドを音速のリズムで響かせながら俺は,
熊のPを歌うのさ。
「いざ!」という感じでほぼ同時にTシャツとスウェットを脱いだが、やめた。
めんどくさい。

一件も落着をしていないが、俺は今、泡のPという創作ソングを歌いながらシャワーを浴びている。目をつぶって全身の泡にシャワーの水圧をぶつけるようにして洗いながら、着るもんないし、あのセーターでも着てみようかなあなんて考えていたんだ。












鐘勢