「ギエロン星獣(ウルトラセブン)」角田寿星

2026年06月22日

水滴は糸となっていくつかのこまかな溝を描いていった
胚葉の出逢いとわかれ またの出逢い
区切られた増殖し行く部屋そして部屋
早起き鳥がとおくで多分けたたましい
密林の呼気と吸気
立ち昇る大瀑布の脇を這いあがっていく大ヤモリ
水際ではあざやかに透きとおった紫の保護色で
いろどられたカエルが木洩れ陽をあびる
チョウの群れはいっせいに翼竜を擬態した編隊を組み
空が ひろがる

雨をよくはじく皮膚を持った瑞穂のウマは
蒸散する背中から霧をつくり
そうして反転した降りそそぐ草をもくもくと食んでいる
はてない砂原を渡り行く
灌木たちの隊列
風に枝が共振する 歌をうたっている

繫殖の季節になれば
大気中に平衡していたくさぐさの記憶が結合をくりかえし
何重らせんのフィラメントが生死のあわいを行き来しては
プラズマ プリズム
極彩色の墨絵が惑星全土にひろがっていく
ランダムな偶然が偶然を呼び
まだ見ぬ脊椎動物のドクロが浮かびあがりそれは
ここ六億年で二度めの出来事だった

惑星の語り部よ
いのちをつなぐ硫化化合物よ
反物質よ ダークマターよ
もういちどだけ ひと呼吸でも
望郷のうたを奏でられたなら
れるりらしくもせいぎのてっついはあらはばかられ
おさぱきたるあくのていこくをぶちぷろめました
惑星内の熱と分子衝突で超兵器は帰巣本能を獲得する
のぞまれぬ凱旋がやがて果たされる

見渡すかぎり花の咲く静寂の野原だった
雪のように傘のように天使のようにいのちのように
しろい羽毛はつぎつぎと舞いおちた
砕けてしまった惑星の
たったひとりの生き残り
素粒子レベルからの再生能力を持ちそれは
いくつものいのちを連れてきたが故なのか
それが惑星そのものだったのか あるいは
グルーオン フェルミオン グルイーノ
強い力よりもさらに強い力が存在するというのか
いずれも仮説の域を出ない

惑星の過酷な環境では多様な生態系は望むべくもなく
不死の生命体がひとり 棲むだけだった
他の惑星から飛来して羽を休めていたにすぎないのか
惑星固有種であるならば 有機物のまったく絡まない
想像の範疇をかるがる超えるそれであったのか
はっきりしていることはたったひとつ
それの生命活動停止はまちがいなく
それ自身の意志によるものだった
血液は時空のゆがみで沸騰をつづけ
故郷の喪失というあまりにもありふれた事象
いかなる暴力の果ての帰結だったとしても

花に埋もれて
目をとじる
この星の早起き鳥が時を告げた




角田寿星

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