「オープン・ミュージアム・ラボ」尾内甲太郎
2026年07月05日
蝉の声 はじけきらない昼
三千人の並んでいる炎天下
浜松市美術館のアンケート
池の錦鯉に何をやればいいのかを
錦鯉をどう食べればいいのかを
まっしろなアンケートを書かされるラボ
書きおわるとラボの裏へ回され
顔 顔 顔
顔を隠したクリエーターが
人の背中を押す
ぽっかりあいた穴へ
人は落ちていく
落ちながら
アンケートの紙切れ一枚へすりかわる
池の錦鯉が吐きだす泡のように
穴の底からもう声は聴こえない
穴の底は湖
湖底に塔として沈む浜松市美術館
冷蔵庫と月の境界線のうえで
アルミニウムの魚が眠る
青い電気を帯びたまま
鰓から赤い血を流し
ひた泳ぐように
ひら飛ぶように
目を裏返して眠っている
美術館の窓という窓のゆらぎを
ついばむ そこなう
むしりとる 魚に堕ちたクリエーター
尾ひれをもった芸術のなれのはての骨
きみたちの名前を
もうひとつも思い出せない
東や西の海からきた鮫が
腹を裂かれてさらされている
笑うことを忘れた湖底の
血のにおいと
冷めきったコーヒーの澱とを
勲章のように見せびらかして
一列になって一礼
しゅぷ しゅぷ しゅぷ
一滴の涙さえよこさない
愛のない一瞥さえ
こちらに投げてはくれない
べたつく夜だ
ぼくは穴から這い出す
たったひとりの生き残り
腐葉土をかきわけると
黒ずむ目 目 目が
ぼくを見あげる
「まちの行く末をおまえに託す」
と腐葉土の下から声がのぼってくる
わかったよ
みんな血に塗れた手を義手に変えろ
蛆とともによどんでいろ
ぼくは行く
帆をあげて この染色体をひきずって
冷蔵庫の方からクリエーターの声
「詩を書く人のくせに想像力がない」
うるせえ
遠いというより速い月をつかむ
