「カニ」中川ヒロシ

2026年08月19日

今から30年くらい前です。
突然、実家に来た男が玄関で言った。
「すんません。お宅の土地に勝手に家を建ててしまいまして、これはお詫びです」
そう言って、男はカニの包みを渡した。
父は「いやいや、それは困ります」と言って、急いで、中川家の離れた土地を見に行くと、すでに中途半端なバラックが建っていて、少女が汚れた顔で、遊んでいた。
とりあえずその家には、立ち退いてもらったのだが、その後訪ねると「男は別の犯罪で、網走刑務所に行った」と、ご近所さんが教えてくれた。
少女が何処に貰われていったかはわからない。
この辺りは「さんか」と言って、戸籍を持たない人が、山から降りて来て次第に定住した地域だ。
ゼンリンの地図にもなぜかここら辺りは記載がなく、ここの子供も三年生ぐらいまでしか学校に来ない。狩猟と農家の手伝いで暮らしていたと思う。
ある日、川で亀を捕まえたので、「飼ってくれる?」と言って置いて行った後に、しばらくして見に行くと、亀は食べられて甲羅だけ置いてあった。
それでも素朴な良い人が多かった印象だ。
よく近所の川で、ライギョを食べたりウナギを捕まえたりしていた。
その集落は、姓名がみんな○山 となっていた。 
今その集約はもぬけの殻だ。
今この人達も、日本人として何処かで生きている。






中川ヒロシ

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