「ウインダム(ウルトラセブン)」角田寿星
浅草押上の商店街に
にょきっと突きでた東京スカイスリーを見上げ
ウインダムだ
ほんとだ ウインダムだぁ
と はしゃぐおっさんふたりを
同年代のおっさんが これまた不思議そうにみつめている
ウインダムとの再会によろこびを隠さないおっさんと
彼と過ごした記憶をまったく失ってしまったおっさん
どちらも痛々しく思われるのは どうしてなんだろう
おっさんとはこれほどまでに哀れな存在なのか
今までおかしてきたかずかずのあやまちを
背負いつづけて生きることの意義を振りかえるとき
ふと股間にかゆみがはしり
それでもつぎの一歩を踏みだすべきか
正解などあるはずもなく
パンツに手を入れ ぼおりぼおりと音をたてる
そう 悲劇は
かんたんに喜劇へかわるんだよ
歳を取ればおのずと分別や常識が備わるものだと
思い込んでただただ待っていたという事実に
がくぜんとする
ウインダムはながらく生死不明だった
戦闘に赴いたウインダムに ガッツ星人は
頭脳部位の集積回路を 遠隔攻撃で破壊した
じゅうぶん致命傷とおもわれるダメージだった
モロボシ・ダンは 彼の回収をこころみたが
終焉を告げる爆発音とウインダムの消滅は 同時だった
コップに口をつけ 底にのこった氷を噛みくだく
ひろがるのは忘却の残滓だ
けしてきみをわすれはしない
こころの底からいったつもりになって
奥歯に染み込んだことばが痛くなり頬をおさえた
スカイツリー建てたひとはウインダムを作ろうとしたのかねえ
んなわきゃねえでしょうよ
待ちつづけ ひたすら待ちつづけて
あらわれたのは全高六三四メートルのウインダム
こんな未来をだれが予想できただろうか
ああ 座布団があったかい
狂ったように笑うんだ
わらえよ
おかえり
おかえりなさい
そのことばを口にしたしゅんかん
ひとは自然に笑顔を作れる仕組みになっている
作り笑顔の効能と副作用
対になるのはただいまの解放感で
泳ぎ疲れてずぶ濡れの四肢をひきずりながら
積みかさねた再会の偶然を言祝ぐんだろう
ウインダム
また あえたね
選択をミスった表情のおさまりがつかずに
半開きになったあいまいな唇を震わせて
どっちつかずに固まってしまい
道行くひとは誰ひとり見向きもしない
もしそれがほんとうなら現存するウインダムは静的であり
量子のゆらぎでのみ歩みをすすめる性質をもつ
そしてこの仮説がまさに真であるのならば
ウルトラセブンが去った今もウインダムは
未だ地球を護りつづけているのだと
ウルトラ警備隊に勤めていたと自称する
目だけは綺麗なじじいが唾をとばした
忘れちゃいけないのはたたかいの支度だった
カードにスマホ 現金を少々
お辞儀の角度 自然にみえる笑顔
タイミングを計ってぶち込む嘘と虚勢
毎日の暴言にへこたれないよう心臓に毛をはやし
死にやがれと思っててもおくびにも出さない立ち居振る舞い
そして最後に 怪獣のはいったカプセルケース
胸のポケットにそっと入れた
