「超天皇」湯原昌泰

2026年08月31日

 25連勤が終わって21時42分に家に着いた。数週間前に会社近くの駐車場で拾い、鍵入れにしたパチモノの革の小銭入れから鍵を出す。拾った時、中には723円入っていた。徹也はその金で晩飯を食った。このくらいの悪事がちょうどよかった。「東京」と書かれたキーホルダーのついた鍵で鍵をあける。食器用洗剤で手を洗い、パソコンの電源を入れた。fpsゲームを立ち上げ、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。よし、殺してやる。ログインしてガチャを回すと、二回目でボックスが七色に光った。眩しいほどのエフェクトの後、でかい音とともに欲しかった水着のレジェンドスキンが出た。さっそくキャラに装備する。徹也はためつすがめつ眺め、トレーニングルームに籠った。 

 カップ麺を食いながら射撃練習をし、ランクマッチに入った。ロールはいつもタンクだった。味方の前に立ち、体を張って守る強さに憧れていた。マップが決まり、キャラを選ぶ。勿論、水着スキンだった。

 味方のDPSは人気の高いリボルバーガンマンと、女スナイパーキャラだった。待機所でキャラを動かしながら、ふと一人のプレイヤー名を見た。超天皇と書かれている。徹也は思わずコーヒーを噴いた。キーボードをティッシュで拭う。キャラが勝手にエモートし、ぶあつい胸板を見せつけた。

 こうしてマッチははじまった。超天皇はスナイパーキャラだった。ヘッドショットで一撃必殺。私の狙いは地獄を呼んだ。「そもそも相手、天皇殺せんのか?」徹也は考え、相手タンクと殴り合った。味方のヒールがあったかい。だが敵の数は一向に減らず、超天皇は死にまくった。平然と超天皇を撃つ敵に、「お前らそれでも日本人か?」と徹也は戦慄した。位置取りを確認すると、超天皇は後ろで芋っていた。つまり、相手スナイパーとの勝負に負け、バンバン頭を撃ち抜かれていた。その惨状に業を煮やしたのか、超天皇は一転、突貫した。だが突貫したら突貫したで、他プレイヤーに狩られた。「おいおい、頼むよ。俺より前に出ないでくれ」徹也は思い、相手の浮いたDPS一人を殺した。そのままヒーラーに絡みに行く。振ったハンマーが直撃し、無事ヒーラーも打ち取った。その瞬間、ふと疑念が頭をよぎった。あの天皇、本当に偽物か?

 25連勤の憂さ晴らしを俺がするように、天皇が憂さ晴らしをしていたって何ら不思議はなかった。超天皇は相変わらず突撃する。徹也は「お願いします、頼みます。俺より前に出ないでください」とほぼ絶叫するように祈った。それでも天皇は前に出る。私はここだと体をさらす。これ以上撃たせるわけにはいかなかった。今こそ俺は覚醒し、天皇をお守りしなければならない。

 その後も、バン。超天皇が死ぬ。まるで俺たちの身代わりのように。死んで死んで死にまくる。俺は42歳だった。バン。多分子供はもう作れない。うちの家系は俺で終わり、数百年の血は絶える。祖父は左足が動かなかった。バン。祖父の父は県内最後の二刀流剣士だった。バンバン。母方の祖父はスナックの女と逃げ、無心の時だけ家にきた。バン。天皇は多分、時間だった。地震が起きて家が潰れる。雨で町が冠水する。バン。その町に、俺の前に、天皇さまが現れる。手をとって、「大変でしたね」と声をかけられる。バン。それは日本との接続だった。バン。その天皇が死に続ける。バン。ならば俺はお守りしなければならない。お忍びでfpsをされる自由を。バン。超天皇などという、ふざけきったプレイヤー名を。バンバン。

  結局試合は0-3で負けた。超天皇さまは3キル32デスだった。ボロボロのボロ負け。でも勝敗なんて関係なかった。天皇は楽しんでくださっただろうか?日々の鬱憤を晴らしてくださっただろうか?

 ゲーム終了間際、超天皇はゲーム内チャットをなさった。そのお言葉を徹也は見た。

 noob.team gap gg






湯原昌泰

Share