「酔って暗雲を駆る」藤則

2026年09月03日

心に掛けていたものは漂い去り
私には紙屑の山だけが残った
来たときには何一つ持たず 去るときには
自分がまだ自分なのかさえ分からない
海へ深く沈み 呼吸の感覚も忘れた
光を背にまとい 忘却の果てにあるものを
巻き上げて ひとつの雲にする

私は灰色を選んだ
かつては灰色が私を選んだ
影のなかには私の過去が詰まっている
けれど私にはもう未来がない
紙切れにも劣らぬほどばらばらで
黒い文字をまとったまま
そのとき私は この一生をどう語ればいい

頭から暗雲へ飛び込み 灰色で
臆病も弱さも覆い隠す
もう誰も私をそう呼ばない
足を踏み出し 雲の中心まで歩いてゆけば
そこもやはり雲だった
訝しげな視線をすべて外へ締め出す
灰色は保護色だ

空の暗雲はますます増えてゆく
なぜだろう
私の亡骸が地球じゅうに散ったのか
それらが巨大な灰色の雲を織り上げ
私の生まれた場所を守っている
あの頃と同じように

もしも あくまで仮に言うなら
黒と白にとって 灰色は不実な色だ
けれど私は暗雲に隠れ
もう私を狙う矢はない
それでも弓はおのずと張りつめる
失意の人々も暗雲で互いを包み
記憶の干上がったこの世界を
暗雲のなかへ浸そうとする





藤則

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