「ゴモラ(ウルトラマン)」角田寿星

2026年05月23日

ウミネコの糞こそが島における唯一の資源だった
硬く積もった糞をつるはしで削りとり
来る日も来る日も船に載せる
堆肥で根をひろげた奴隷が歌をうたうだろうさ
クリプトコッカスはそりゃあ脳にはびこるだろうさ
ついには糞さえも枯渇して
からっぽになった島は飛行場へ姿をかえる
地中深く からっぽになった空洞のそこには 怪獣がいたんだ
ああ たしかに 眠ってたんだろうさ

ゴモラの生まれ故郷ジョンスン島を
ジョンストン島だとずっと記憶違いしていた
ジョンストン島は北半球の太平洋上に実在する島で
有史以来 ひとは住まず
アメリカ合衆国とハワイ王国とが互いに
領有権を主張してながらく争った
領土問題は解決した
解決した
なんどでもいおう
かいけつしたんだ

誰も領有しない海をわたり
誰のものでもない時を超えて
六甲山から阪神電鉄沿線の地中ルートを潜行し
再浮上した大阪で
ゴモラはウルトラマンと闘った
破壊の限りを尽くされた大阪城は
大阪のおっちゃんたちが夜通しかけて修繕した
人知れず陥没した阪神甲子園球場は
阪神園芸のみなさまの神技で
一夜のうちに復元された
阪神タイガースが優勝できなかったのは
読売巨人軍のV9を
指をくわえて眺めるばかりだったのは
ゴモラの呪いだった

巨人5勝 阪神の4勝でむかえた
伝統の阪神巨人戦
颯爽と右打席に立ったのは4番キャッチャー
田淵 幸一
自然発生的に湧き起こるタブチコールが大好きだった
タ・ブ・チ タ・ブ・チ
テレビの向こう まだ回らぬ舌で
幼い子どもがタブチコールを唱和する

——これぞ怪獣って感じだぞ
ウルトラマンのアクターだった古谷敏さんは
ゴモラと対峙した瞬間
マスクのなかでつぶやいた
カッコいい怪獣を前に 胸がときめいてしまうのは
大人も子どもも同じだった

死闘だった
オレンジのユニフォームが鮮やかな科学特捜隊
スマートな銀の巨人ウルトラマン
ゴモラは尻尾を吹き飛ばされた
角を折られた
ゴモラの尻尾は世紀を跨いで暴れまわり
天に昇って星座になった
ほら見てよ あれがゴモラのしっぽ座
いい加減さ そういうのそろそろやめない?

斃れたゴモラのなきがらは
身の丈四〇メートルの剥製になって
大阪万博の会場を飾った
故郷の地中に眠っていたゴモラが叩き起こされたのは
とおく日本まで連れて来られたのは
そもそも生け捕りにして万博の見世物にするという
怪獣愛護団体の皆さまが卒倒しそうな理由だった

いくつかの些細なハプニングは
何ごともなかったかのように修正され
ひとりの怪獣が死に
当初の目的は姿をかえて達成した
生きたまま展示できなかったのが なんとも残念ですなあ
禿げちらかしたおやじのダミ声が
火のついたタバコといっしょに放り投げてきて
こんにちは こんにちは
オイルショックの前夜だった
すべては解決した
かいけつしたのだと
あかるいあしたがわれらをまっているのだと
ハヤタ隊員の笑顔が
きっと語っていた





角田寿星

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