「ゴモラ(ウルトラマン)」角田寿星
ウミネコの糞こそが島における唯一の資源だった
硬く積もった糞をつるはしで削りとり
来る日も来る日も船に載せる
堆肥で根をひろげた奴隷が歌をうたうだろうさ
クリプトコッカスはそりゃあ脳にはびこるだろうさ
ついには糞さえも枯渇して
からっぽになった島は飛行場へ姿をかえる
地中深く からっぽになった空洞のそこには 怪獣がいたんだ
ああ たしかに 眠ってたんだろうさ
ゴモラの生まれ故郷ジョンスン島を
ジョンストン島だとずっと記憶違いしていた
ジョンストン島は北半球の太平洋上に実在する島で
有史以来 ひとは住まず
アメリカ合衆国とハワイ王国とが互いに
領有権を主張してながらく争った
領土問題は解決した
解決した
なんどでもいおう
かいけつしたんだ
誰も領有しない海をわたり
誰のものでもない時を超えて
六甲山から阪神電鉄沿線の地中ルートを潜行し
再浮上した大阪で
ゴモラはウルトラマンと闘った
破壊の限りを尽くされた大阪城は
大阪のおっちゃんたちが夜通しかけて修繕した
人知れず陥没した阪神甲子園球場は
阪神園芸のみなさまの神技で
一夜のうちに復元された
阪神タイガースが優勝できなかったのは
読売巨人軍のV9を
指をくわえて眺めるばかりだったのは
ゴモラの呪いだった
巨人5勝 阪神の4勝でむかえた
伝統の阪神巨人戦
颯爽と右打席に立ったのは4番キャッチャー
田淵 幸一
自然発生的に湧き起こるタブチコールが大好きだった
タ・ブ・チ タ・ブ・チ
テレビの向こう まだ回らぬ舌で
幼い子どもがタブチコールを唱和する
——これぞ怪獣って感じだぞ
ウルトラマンのアクターだった古谷敏さんは
ゴモラと対峙した瞬間
マスクのなかでつぶやいた
カッコいい怪獣を前に 胸がときめいてしまうのは
大人も子どもも同じだった
死闘だった
オレンジのユニフォームが鮮やかな科学特捜隊
スマートな銀の巨人ウルトラマン
ゴモラは尻尾を吹き飛ばされた
角を折られた
ゴモラの尻尾は世紀を跨いで暴れまわり
天に昇って星座になった
ほら見てよ あれがゴモラのしっぽ座
いい加減さ そういうのそろそろやめない?
斃れたゴモラのなきがらは
身の丈四〇メートルの剥製になって
大阪万博の会場を飾った
故郷の地中に眠っていたゴモラが叩き起こされたのは
とおく日本まで連れて来られたのは
そもそも生け捕りにして万博の見世物にするという
怪獣愛護団体の皆さまが卒倒しそうな理由だった
いくつかの些細なハプニングは
何ごともなかったかのように修正され
ひとりの怪獣が死に
当初の目的は姿をかえて達成した
生きたまま展示できなかったのが なんとも残念ですなあ
禿げちらかしたおやじのダミ声が
火のついたタバコといっしょに放り投げてきて
こんにちは こんにちは
オイルショックの前夜だった
すべては解決した
かいけつしたのだと
あかるいあしたがわれらをまっているのだと
ハヤタ隊員の笑顔が
きっと語っていた
