「パワハラ上司がくれたもの」つつみ
私が初めて正社員で働いたのは1997年で、就職氷河期を勝ち抜いたとは言っても、入社後、歓迎ムードみたいなものは全く感じなかった。教育担当の先輩からは、「今日はかなりピリピリしてる日なのでこの部屋(研修部屋)を出たときは、挨拶だけでもちゃんとやるように」と言った。
研修を終えて配属された部署の部長は、とにかく初日から厳しかった。初めてやることだから、もちろん失敗するのだけど、その怒り方が怖すぎて、さらに失敗は派手さを増していった。
お客様にお茶を出すときも、震えていて、お茶が溢れて茶托を少し濡らしてしまって、もう一度淹れに行けばよかったのに、そのまま出してしまったので、部長はお客様の前でめちゃくそ私を罵倒した。
短大の時に取得した「秘書検定2級」は何の役にも立ってないと思い、もう一度参考書を読み直したり、お茶セットを買って自宅で練習したりなど、「2回目の失敗」はやらないように心がけた。
なんか、今考えると、そういう生真面目さがいけなかったと思う。所謂「何度言ってもなおんないやつ」は、部長に怒られることはなかった。そいつにどう伝えれば伝わるのか逡巡している部長の姿は滑稽だった。
いよいよ会社がヤバくなってきて、事務部門が大幅に縮小され、当時6人だった部は3人になった。何度言ってもなおんないやつと、私と部長。もちろん矛先は私に向けられてしまう。
とはいっても、言い方は厳しいが、部長の言ってることは正しく、それに従い勉強すればなんらか得られるものは多かった。よく飲みに誘う人で、嫌がる社員は当時からいたけれども、私は酒が入ると、誰とでも楽しく話せるタイプだったから、部長ともだんだん仲良くなっていった。
しかし、ついに「何度言ってもなおんないやつ」が他部署に異動してしまうと、息苦しくて仕方なかった。一緒に酒を飲んでも以前のように楽しくない。私は結局、「何度言ってもなおんないやつ」よりがんばってる自分が好きだっただけなのか?という疑問までうまれた。
3年ほどたっても、どこにも異動にならない私は、少しずつ部長に反抗するようになってしまった。部長は「何度言ってもなおんないやつ」になった私に、少しずつ気を遣うようになり、そのうち何も言わなくなって、何もかも自分でやるようになってしまった。
その翌年、初めての異動となり、部長は「よかったね」と言った。本当によかったと思った。親しい部署は、居心地のよい部署で、新しい部長もとても親切で人当たりも良くて、優しい人だった。
でも、そこからなんとなく心身に異常を感じるようになった。それが何だったのか本当に今でもよく分からないのだけど、新しい部署で私が得たものがあったかというと、あまり記憶にない。
